第56話 日常、そして帰り道

 さて、ここはエンテの町。数日前からハゲ頭の悪魔が襲ってきている。そのたびにアリスの妹であるリリスがふっとばしている。毎日毎日。

「今日こそ、リリス様を捕縛す……」

「また来たのか。懲りないやつだ。とんでけー」

 魔力を込めた蹴りでそのまま大陸の外へとばされる悪魔。それでも翌日にはまた帰ってくる律儀な悪魔である。

 町の人々は最初こそ戸惑っていたものの、もうすでに慣れてしまった。攻撃されなければ問題ないと判断したらしい。攻撃される前にリリスが悪魔を飛ばすから何の問題も無い。


 それよりも、町はあるニュースで持ちきりだった。

「なあ、あれ、聞いたか?」「あれだろ、ついにジュンヤがダンジョンボス退治したって」「うわさによれば、80人もいた中で6人しか生き残らなかったらしいぞ」「ここ最近見ねえと思ったらそんなとこにいたのか」「あいつならいつかやると思ってたぜ」

 この町を拠点にしていた黒髪の冒険者の話である。冒険者ギルドネットワークで五日前に伝わり、冒険者たちに伝えられてからずっとこの有様である。彼はゴブリン討伐の頃から有名になり、その確かな腕や珍しい戦い方、実は優しい性格などで人気になった。女性冒険者からも「顔はよくないけど性格は良い」と冒険者にしてはなかなかの高評価である。

 その中でも熱狂的なファンがここにいる。彼のことが好きになっちゃった人である。


(うわあ、ジュンヤくんやっぱりすごい! かっこいい!! 最高!!! あんな化け物を倒しちゃうなんて……! ああ、早く会いたいなあ。そろそろジュンヤくん欠乏症で頭がおかしくなっちゃうよ……)


 もはや重症である。

 ここ最近、チェシャが引きこもっているため、ワンダーランドはあまりクエストを受けていなかった。チェシャいわく、「マンガの締め切りが近いの~! 早くしないと印刷してもらえない~!」とのこと。その漫画の内容は……いや、言うまい。少なくとも薄い本を作っていることだけは確かだった。

 何はともあれ、エンテの町は今日も平和だった。その数日後までは。

 

**********

 

 その頃、件の純也たちは、街道を下っていた。

「ねえ、さっきハゲたおっさんが飛んでるのが見えた気がしたんだけど、気のせいかな」

「そうだろ。フォリッジも疲れてきてるのか?」

 アレー出発から二日目。馬車を使ってもよかったが、ラスボス討伐前に魔獣の骨をすべて売り払っていたため、再度素材集めが必要になったのである。

 おっと、ちょうど良いところにウルヴェンが。

 戦闘開始……とはいってもすこし離れたところから光矢エナジーボルトでヘッドショットをぶち込めば試合終了。魔獣の肉や骨をとってからさらに街道を進む。

 俺も強くなったものだ。アレーに来る前はしっかりと戦ってやっとだったのに、今では片手間だ。強化魔法をかけていたこともあるのだが。

 まあ、こちらも至極平和に、マイペースで旅を続けた。あんなことになるとは知らず……。

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