第51話 鬼の倒し方 後編
「
一瞬、レッサーオーガの動きを止める。直後、俺たちはばらばらに逃げる。そして、ひとつのところに集まって、また、回復を始める。
レッサーオーガは、のんびりと回復をする彼らに襲い掛かった。狙いは先ほど殺し損ねた黒髪の少年。
その頭に振り下ろした刃が当たる、その瞬間。
「
彼らの姿はそこから消えた。
そして、レッサーオーガは動けなくなった。
**********
数秒前。
「なあ、テレポートって可能か?」
「空間転移魔法か……」
「え、まさかできないのか……!?」
「僕の得意中の得意じゃないか……!」
俺はずっこけた。できるんかい。しかも得意とか……。何かと都合がいいな。ご都合主義か?それはともかく。
「ちょうどいいな。使わせてもらう」
そうして、俺たちは誘導作戦を敢行した。
**********
そして、この作戦は成功。前回罠を仕掛けた場所に誘い込んだ。
あえて隙を見せて攻撃させる。来たら間一髪でテレポート。そうすれば、自分たちに攻撃を当てずに相手を罠にはめられる。ぎりぎりのタイミングでテレポートする必要があるからとても難しいが、それをいとも簡単にやってのけるフォリッジがすごい。
しかし、強化したスパークでも長く止めることは難しいため、捕縛魔法を発動し、完全に動きを止める。
一旦魔力補給して、ついに計画の要となる呪文を紡ぐ。
「この世に在りし、精霊よ。我が身のこの力
そして、少しためて、息を吸ってから、命じる。その違和感に気付かずに。
「封印!!!」
倒さずに封印する。俺ができるのはそれだけだった。そのためにレベルを上げて新しく封印スキルを取った。先ほどまでの行動も全て封印のための下準備である。それこそが今まで考えて来た計画の全容だった。
さあ、術は成功したのか!?
しかし なにも おこらなかった。
「……えっ!?」俺は激しく困惑した。
**********
どういうことだ!?封印が発動しないなんて!
術が発動し、失敗しただけだったら納得できる。しかし、そうではなかった。
そもそも発動すらしなかったのである。
よく考えれば、魔力が流れた感覚もなかった。なぜか。
俺は冒険者カードを見た。答えが見つかった。
『MP 86/90』
そう、魔力不足である。
魔力は回復したはず……だった。しかし、ポーションは魔力を一気に回復させるのではなく、少量ずつゆっくり回復させていくというものだということを忘れていた。
ちなみに、封印に使用する魔力は87,5。封印のための魔方陣描画に1,5。合計89。何故端数なのかは知らない。
ようするに、封印のための魔力が回復しきっていなかったため発動しなかったのだ。
4秒待ったら全回復した。一秒に魔力1回復らしい。
しかし、その間に――
「貴様…………許さぬぞ……」
レッサーオーガが再び動けるようになってしまった。
「もう良い……今から貴様らを食うぞ…………喰ってやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」
あいつもここまで追い詰められるのははじめてらしく、頭がおかしくなってしまったようだ。人間もそうだが、理性を失ったものはさまざまな意味で恐ろしい。
ただでさえ怖いオーガが、目をむいて、鬼のような形相で迫ってきた(本物の鬼なのだが)。魔法を乱発しながら。
魔法の弾幕をかわしつつ逃げる。しかし、避けきれずに少しずつ当たり、体に傷がついていく。
(もう一度罠の場所に誘導しようか……確実に誘導はできる。でも、あまりにリスクが大きい。却下だ。というか、もうすでに生命力が限界だ! 早く、誰か……)
心の中で助けを求めた。神でも何でも良いから……二度も死にたくないし、仲間の死に目も見たくない。どうすれば良いか、教えてくれよ!俺を、救ってくれ!!
救いの手を差し伸べたのは、仲間であった。
**********
矢がオーガ目掛け飛ぶ。それを射抜くために。しかし、それは標的に捕まえられた。
オーガは、矢の飛んできた方向に顔を向けた。殺意に反応したのだろうか。
そこにいたのは青髪の弓使い。挑発するように矢を放つ。オーガは、彼に向かって突進した。その場所がある意味を持つものだとは知らずに。
弓使いは確かにそこにいた、はずだった。
オーガが当たった瞬間、弓使いは消えてしまった。確かに当たった感覚がした。
(倒した…………殺したぁぁぁ!喰うぞ……喰うぞ喰うぞ喰うぞ喰うぞ喰うぞうぞうぞうぞうぞぞぞぞぞぞぞぞぞおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!)
しかし、死体はどこにもなかった。下にも、横にも。
そしたら、何かがオーガに絡み付いてきた。強い力でオーガを締め付けるそれは、赤と青の竜であった。
オーガから何かが落ちた。しかし、誰も知らない。
声が聞こえる。
「この世に、在りし、精霊よ。……我が身の、この力、
文脈で区切り、一つ一つを大事に、はっきりと発音している。精霊に対して、語りかけるように、命じていく。
矢から光の線が現れ、それによって作られる光の檻が、オーガを覆う。
純也は、最後の言葉を放った。
「……………封印!!!」
光の檻が収縮し、小さな粒になった。封印は完成した。
**********
「…………や………やった……やったぞ……」
光の粒を見て、俺は感動し、拳を振り上げ、叫ぶ。
「俺たちは、あの化け物に勝ったんだ――――――――!!!!!」
三人の少年は、喜んだ。まるで、この世の終わりを回避したかのように。
そして、興奮もつかの間。落ち着いてから、探索を始めた。
しばらく探しても、何も見つからなかった。
「おかしいな。絶対何かあるはずなのに」
フォリッジがつぶやく。
……あ、何かあった。何だあれ。
近くに寄って見ると、赤く輝く丸い水晶だった。あれは……間違いない。紅の魔石だ。
「お、見つかったのか。魔石」
ああ、見つかったよ。やっと帰れ――
「よかったな、見つかって。でもさ、二つ必要なんだろ、それ」
ないのかよ!ライケンの言葉によって忘れていた事実を思い出した。
まだまだ俺たちのダンジョン攻略は終わらないようだ。
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