第50話 鬼の倒し方 前編
二日後、いよいよボス討伐本番だ。
この二日間、準備を重ねてきた。キクロプス討伐だってそうだ。
おかげでレベルは40まで上がり、使えるスキルも増えた。
その中で、ひとつのスキルを集中して育てておいた。12ポイントのSPを消費。そのほか、剣技スキルのレベルを一つ上昇。スキルポイントは使い切らずに貯めておいた。
片方の剣はキクロプス戦のときに曲がってしまったので、新しいものを買った。しかし、ナイトソードは、さすが王国騎士愛用の剣とあって、全然壊れない。重さもちょうどいいし。
これからあいつに戦いを挑むところだ。
剣二本と、いつも使っているミスリル合金使用の軽装鎧、ポーション類などが入った大容量の肩掛けポーチ、異世界に来てから購入した愛用の皮製ブーツなど、フル装備で出発する。
二人の仲間たちと合流してから、ダンジョンを降りていき、現在最下層とされているところまできた。
記憶はあまり消えないもので、少し複雑な迷宮を迷わずに降りていけた。
ちなみに、この三日間、大規模ではなかったものの、ボス討伐が行われたそうだ。結果は失敗。誰も帰ってくることはなかった。おそらく全員食われたのだろう。俺はよっぽどの幸運の持ち主だったとも言える。
こんなに恐ろしいものを相手にどうやって戦うべきか。
脳内で組み立てた勝利への道筋は、何度も頭の中でシミュレーションしている。でも、それはあくまで頭の中でのことだ。実際にやったこともないのに確実に成功させられるわけがない。
俺たちは、不安を胸に抱きつつ、彫刻が施された両開き引き戸の前に立った。
石の引き戸を開ければ、そこはもう戦場。血と肉の強いにおいに思わず顔をしかめる。
今度は慢心などせずによく注意し、観察した。
しばらくして、フォリッジが岩の隙間からそいつを発見した。
「ボスってこいつかい?」
「ああ、戦闘開始だ」
こうして、決戦は地味に、静かに、始まった。
レッサーオーガは岩陰から飛び出し、フォリッジに突撃。しかし、彼はそれをかわす。
俺とライケンはすぐに剣を抜いて、構える。そして、俺がかけられる肉体強化魔法をすべて発動。俺たち三人にかける。
そして、レッサーオーガに突撃。二本の剣で剣技をかわるがわる発動し続ける。
ライケンが「いったん離れろ!」と指示する。
指示どおりにバックステップで離れると、ライケンが詠唱を始める。
「赤竜よ! 契約に従い、我が目の前の障害を焼き払え!!」
火炎が目の前を包み込む。赤き竜はレッサーオーガに傷を負わせた。
「ほう、なかなかやるようだな。ならば私も本気を出すしか……」
「
とりあえずうるさいから、メテオを叩き込んだ。敵の言葉は聴かぬ。
ちなみに、フォリッジも弓矢で遠くから攻撃している。しかし、当たらずにほかのところに刺さってしまうものも多かった。
周りの状況を見渡し、思わず顔がほころぶ。外れた矢がまわりの地面に刺さっていて、血はどこにもない。俺たちが隙を見せずに攻撃し続けた結果、攻撃をさせることはなかったのだ。
しかし、レッサーオーガは多少の傷がついた程度で、あまりダメージを追っていないらしい。
それでいい。計算どおりだ。
俺はMP回復ポーションを飲み、構える。
さあ、いよいよ本番だ。一か八かの、命をかけた勝負の始まりだ!
**********
俺は思いきり逃げていた。攻撃を仲間に任せて。
そして、岩陰に隠れる。考えを整理するために、かつ、最終準備をするために。
(まず、ボスを部屋の隅に追いやる。トラップにかかったら、最終術式を発動。よし、完璧!)
そうと決まれば、あとは魔力を固め、術式の形にするだけである。それが難しいのだが。
ある一点に、集中して魔力を送り込み、遠隔で土を生成。作った土に対し、
「
小声で詠唱。相手を一時的に行動不可にする魔法を使用。準備だけをしておいて、いつでも発動できるようにした。
もうひとつの発動準備は……よし、できてるな。あのあたりに
すべての準備は完了した。ライケンもそろそろ疲れ始めているし、そろそろいい頃か。
純也、行きます!!
**********
純也が戦線に復帰した。
その頃、ライケンは純也の読みどおりに、疲弊していた。当然のことながら、魔剣の操作にも、魔剣の能力発動にも魔力を使うのだ。
フォリッジも、普通に矢を放ちながら、気付かれないように、術式発動に必要な、魔法文字の書かれた矢を的確に、指定された場所に撃ち、さらに、魔力を纏わせた矢で、少しずつ相手にダメージを食らわせていた。
二人は懸命に戦い、仲間を信じていた。
「あいつならきっとできる」、と。
**********
俺は二本の剣で、同時に同じ剣技を放つ。
「剣技、トリプル・へビィ・スラスト!」
二本の剣で三発ずつ、計六発の重い突き。
当然、腕に強い負担がかかるが、相手はひるみ、後退っている。
六発目の突きの勢いを利用し、バックステップで後退。間を置かずに、魔法を放つ。
「
90まで上がったMPと、ポーションという便利アイテムの力による連続高火力魔法系攻撃の連鎖。メテオはさっき使ったばかりだし、連発による魔力消費はその後の行動に深くかかわってくる。そのため使用していない。
代わりに、単発の火力はそこまでではないものの、魔力消費があまり大きくない攻撃魔法や剣技を連発して、相手を押していくことにした。何も、この作戦では倒す必要はないのだから。
スパークの効果で動けなくなったレッサーオーガを横目に、体力を回復してからMPを回復。二人も回復しようとしたとき、「危ない!」
ライケンが叫んだ。背後からレッサーオーガが襲い掛かってきていた。
しまった。レッサーオーガの魔法抵抗力を侮っていた。まさか、こんなに早く回復するなんて!魔法威力増加スキルのレベル上げとけばよかったな・・・。
間一髪でかわしたが、その先にはライケンがいる!彼を守る方法を考えた。
…………今からライケンを庇いに行く……いや、一瞬前に離れたばっかりだろ!もうすでに至近距離だし!じゃあ………魔法?………駄目だ、微妙に間に合わない。あああああ!もう駄目だ!もう守れない!でも、守れなければライケンは死ぬし…………一体どうすればいいんだ!
しかし、俺の仲間はもう一人いた。
「プロテクション・シールド」
フォリッジである。
「僕、魔法は昔から得意だったんだ。自慢じゃないけど、学生時代はよく“魔法学園で一番の魔術師”と言われたものだよ」
魔法は得意だったようだ。彼は、珍しく得意げに、ライケンに防御魔法をかけながらそんなことを話してきた。ここの学制はよくわからないが、とにかく、それほど魔法が上手だと言いたいようだ。
とにかく、ライケンが助かった。そして、ボスをおびき寄せるのに効果的な方法も思いついた。
「じゃあ、その“魔法学園一の魔術師”さんに少し働いてもらおうか。・・・作戦変更だ」
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