結――失ったものは取り戻せないから。
第52話 最後の階層、そして絶望
それから、また攻略の日々が始まった。しかし、それほど難しくなく、二日に一階層攻略というハイペース攻略が進められた。あのレッサーオーガが強すぎただけで、ほかのボスはさほど強くなかった。あれ以降、封印を使うことはなかった。
俺は全階層のボス攻略レイドに参加。大人数でボスを攻略して行った。人付き合いが苦手な俺は苦労したが、戦闘においては、二刀流の攻撃範囲や攻撃速度などの利点で大きな功績を挙げ続けた。おかげで犠牲者もほとんど出なかった。
攻略は一ヶ月続いた。そして……
「やっと30層か~。長かった~」
「確かにな。もうフロアが狭くなってきたし、そろそろラスボスだぞ」
俺と冒険者仲間は、29階層から30階層に向かう階段を下りていた。ボスを倒した直後である。俺はこのアレーの町に少しずつだがなじんでいた。
ちなみに、ダンジョンは下に行くほどフロアが狭くなり、最下層は一面ボスフロアになっているそうだ。
階段を下りた先には異形の怪物がいた。でっかいのが一体。その先は……何もないようだ。
巨大な異形が俺を見た。いや、俺たち二人を見た。俺は仲間を一人連れていた。それを失念していた。
俺たちは恐怖に襲われる。本能からの恐怖。俺は逃げようと構える。しかし、俺の仲間は違った。
「なに逃げようとしているんだよ。戦って、今倒しちまおうぜ」
「馬鹿か! できるはずがないだろう! 死にたくなければ早く逃げるんだ!」
「大丈夫だ。今の俺たちで戦って勝てねぇ相手じゃねぇはずだ。今までだって散々倒してきただろ。できるはずだ」
「……この馬鹿がっ!」
彼は今までの戦績から調子に乗っていたらしい。ボスは少人数で倒せる代物ではない。これまでのボス戦も大人数でやってやっと倒せたという状況。最小数人数での撃破となったレッサーオーガも、実際には倒したわけではない。
二人で倒すなど、不可能に近いことであった。
彼は果敢にもボスに向かって行った。俺は止められなかった。彼は両手剣を使って突きを入れた。しかし
「何だと!? 馬鹿な!」
その剣ははじかれた。そして、そのまま折れてしまった。
俺は(やっぱりな)と思いつつ、顔をしかめる。この先の出来事が明確に想像できてしまったから。
彼はあわてた。自分の剣が通じなかったことが予想外だったのだろう。
それをボスが何の感慨もなさそうに摘み上げる。
「おい、やめろ! こらぁ……! やめt――」
そして、ボスは、彼を、何の躊躇いもなく――
ぶちゅっ
――握り潰した。
命は理不尽に潰された。
彼の体は破裂し、血と肉片が辺りを汚す。
俺は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
心が苦しくて、どうしようもなかった。
ダンジョン最終ボスの存在が明らかとなった。
そして、久々の犠牲者が現れてしまったのだった。
**********
―――それから間も無く俺は逃げ、ギルドに行き、ダンジョン最終ボス―――ラスボスの存在を報告した。それから、仲間の死も伝えた。その後、宿屋に戻り、早めに休んだ。
翌朝、ラスボス討伐レイドが組まれた。当然俺やライケンたちも含まれた。
ラスボスとの戦闘は苦戦を強いられた。仲間が何人も死んで―――いや、殺されていった。
剣ははじき返され、拳からは血が流れ出る。飛び散る血は辺りを鮮やかに染め上げた。
殺されていく、仲間たち。無力感。俺は何ができる?
……何が、できているのだろう。誰よりも弱く、何もできない自分が。
**********
長い死闘の末、俺たちが勝利した。正真正銘、俺たちが倒した。しかし、犠牲は膨大だった。レイドメンバー84人中、最後まで立ちつづけたのは俺を含めて6人だけだった。
92,85714%の人間が死んだ。
死亡率だけで言えば過去最悪のものだった。
その事は噂として伝わり、伝説と化した。
“アレーダンジョンの悲劇”と呼ばれる伝説となった。
**********
純也はラスボスから紅の魔石を入手した。しかし、純也の表情は晴れやかなものではなかった。
**********
何で俺だけが生きているんだろう。
俺のほかにも異世界転生者はいた。どう考えても彼らのほうが強くて、役に立つはずだったのに。
俺はダンジョンの階段をゆっくりと上っていた。生き残った6人で。
警戒はしていなかった。というより、できなかった。気を抜いたらそのまま倒れて死んでしまいそうだったから。比喩ではなく本当に。
いや、そのまま死んでしまってもいいかな。でも、報告だけはしなきゃ。死に場所はその後で探そう。この世界なら死に場所はいくらでもあるし。
ん? この世界? 何かがおかしい気がする。そもそも俺は何でここにいるんだっけ。
まあ、そんなのどうでもいいや。
俺は何もかもがどうでもよくなった。
思い出せるのは血、肉、赤。頭に浮かぶは惨劇、恐怖、悪夢。孤独、無力感、絶望感。
ただただ俺は階段を上がり続けた―――。
**********
しばらくたった。
俺は宿屋にいた。何も考えずに窓の外を見ていた。
宴会の声が風に乗って聞こえた。何も知らずに。あの惨劇を知れば、ああは騒いでいないだろう。
俺は誰も守れなかった。守る力がありながら。後悔が渦巻く。
守る力……いや、そんなのなかったな。何を思い上がってたんだ。馬鹿みたいだ。俺が殺されなかったのはただ単に殺すだけの価値が無かっただけなのかもしれないな。まさに虫けらだ。
自己嫌悪が最大に達する。生きる理由など何も見出せない。抜け出すことのできない闇の迷宮。それは心の中で広がり、
夜は更けていった―――。
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