第44話 遭遇

 その翌日、またダンジョンにもぐった。

 今日はついに最前線である。

 ダンジョン攻略を始めてからレベルがひとつ上がった。スキルもバリエーションを増やし、魔法もだいぶ使いこなした。

 いつものように出会った敵を叩きつつ、地下にもぐる。


 ―――地下16階。

 俺は一人で未踏破エリアを突き進む。

 ダンジョンには、階層ごとにボスがいて、それを倒さないと、次の階層には行けない。

 ここは、ボスは発見されているものの、いまだに倒せていない状況だった。

 ここに、赤い髪を持つ少年―――のような魔物が現れた。

 その帽子のような赤い髪から、”レッドキャップ”と呼ばれているそれは、3体ほどの集団に固まり、今まさに俺を取り囲んでいる。

 さて、どうするべきか。いや、答えは決まっている。

 殺し合いの開幕だ!


**********


 ―――数時間後。

(よし、この付近の探索は終わった。あとはこっちだ)

 俺は、戦闘でついた血で体を汚しつつ、ダンジョンを探索中だ。

 とはいえ、もうすでにほとんどの場所を探索し、もう完全踏破目前だ。

 そして、まだ行っていないエリアへと足を運んだ。

 しかし、忘れていた。ここはまだ攻略されきっていない、つまりボスがまだいるということを。


**********


 ―――あるところで戦闘が行われていた。

 そこには人が密集していて、それぞれが同じ一体に向かって攻撃している。

「うらぁ!さっさとくたばれ、ボス!」

 戦士の一人が挑発するように叫ぶ。

 それに対し、その相手――ダンジョンの第16階層ボス、レッサーオーガは何も応じず、ただ攻撃を受け続けていた。

 魔法も打ち込まれているが、どれもこれも、かわされたり、命中しても全く効いていないようだった。

 やがて、冒険者たちは疲れ始め、動きも鈍くなっていった。

 レッサーオーガはぽつりと、「そろそろ喰い時か」とつぶやく。

 そして、レッサーオーガの動きが変わった。

空中浮遊レビテーション

 レッサーオーガは浮いた。これで戦士の攻撃は届かない。

 さらに、移動して、魔法を唱えた。

火炎球ファイアボール

 火の玉が出現。それは冒険者たちを襲い、焼き尽くす。

 そして、それを受けたものは死んだ。

 また、効果範囲外にいた魔導士には絶望を与えた。

 逃げようとしたところで、もう遅い。

 魔導士は、頭上から襲い来るオーガに喰われた。

 レッサーオーガは、頭から、首を噛み千切り、ついには、胴体から足まですべてを飲み込んだ。

 その後、地上に降り、先ほど焼き殺した戦士たちの焼死体を食べた。

 すべての死体が食べつくされるまでに、そこまで時間はかからなかった。

 ―――それから、しばらくしてから、一人の獲物が現れた。

 それは、黒い髪と黒い目を持つ人間の少年だった。


**********


 俺の前には大きな石の扉があった。

 両開きの、彫刻が施された立派な扉だ。

 後、探索されてないのはここだけだ。

 ここに魔石があるのだろうか。

 石の扉を前に押した。

 しかし、びくともしなかった。

(どういうことだ?)

 押して駄目なら引けということで、石の扉を今度は後ろに引いた。

 しかし、何も起こらなかった。

(・・・・・どういうことだ?)

 5分ほど考えて、やっと思いついた。

(ああ、横に引けばいいのか!)

 横に引くと、ガラガラと音を立てて扉は開いた。

 どうやら引き戸だったらしい。

(さて、ここは何があるかな)と探索する。

 見た感じは何も無い、固い土の地面が広がるただ広い部屋だ。

 しかし、くさい。

 焦げた肉と、血。その強いにおいを感じた。

 あまり嗅ぎ慣れない――嗅ぎ慣れたくは無い、戦場の匂いである。

 ついさっき、誰かが戦って、誰かが死んだ。それは確かだろう。

 しかし、死体が無い。どういうことだ。

(・・・・・素材を剥ぎ取った後・・・・でも死体はある程度残っているはずだ。いや、ギルドに回収された後かも・・・・・・だったらこんなに匂いが残っているわけ無い。ついさっき戦闘が行われたような感じだし。じゃあ・・・・・考えたくは無かったけど・・・)

 そこで、ひとつの可能性を見つける。

(もしも、ボスが死体を食べたのならば、そして、まだここに潜んでいるとしたら・・・・・!)

 辻褄が合う。

 そして、辛い戦闘の幕開けは近い―――否、もう避けられないことを悟った。


**********


 俺の直感が危険を伝えてきた。

 新しく入手した魔力感知スキルの効果で、直後から迫ってくる魔力のエネルギーに気付いた。

 とっさに体を横に傾ける。

 そのすぐ後、ちょうど俺の頭があったところにエネルギーの矢が飛んで来た。

 ここのボスは魔法も使うらしい。

 すぐさま振り返り、剣を抜き、構え、警戒する。

 現れたボスは、筋骨隆々の、頭に角を生やした、まさに鬼といったやつである。

 一瞬、一ヶ月前に戦った、ゴブリンの亜種であるキンコツゴブリンを思い浮かべたが、違う。

 あれには角は生えていなかった。

 そこで、ボスは口を開いた。

「我は、レッサーオーガ。ここのボスだ。ここまでたどり着いた実力は認めてやろう。しかし、貴様の命運もここで尽きた。おとなしく我が糧となるがいい!」

 こんな厄介なやつと戦うことになろうとは思っていなかった。

 しかし、出会ったからにはやるしかない。

 そして、戦いは始まった。


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