承――ただいま迷宮踏破中。

第43話 ダンジョンデビュー

 翌日の朝。

 ギルドで、ダンジョンに行くことを告げると、ダンジョンにいるモンスターのリストと今攻略されているところまでの地図をもらえた。

 そして、朝からダンジョン攻略である。

 どうにか今のレベルで魔石をゲットできそうだ。

 ここは地下迷宮になっていて、今は地下15階まで攻略されているらしい。地下16階は現在攻略中とのこと。

 そのうち、もう入れるところが無い、つまり完全攻略されたとされるのは地下12階までとされている。

 ひとつしたの階に行くほど敵のレベルが上がっていっているが、ここはレベルが低いらしく、1階はLv.1、2階はLv.2というように、ひとつ下に行くと、ひとつレベルが上がっていっていた。

 つまり、現在のレベルだと攻略中の階層は全部踏破でき、このままのペースで行くと、地下30階まではいけるはずだ。

 そして、まだ攻略されていないところには魔石がある可能性がある。現に、今までに魔石が幾つか見つかっていた。ちなみに、それらはほとんど素材に使われてしまったという。

 地下12階以下には魔石がある可能性がある。それを獲得できる可能性も高い。

 なのでどうにかなるとふんだのだ。

 ・・・よし、行こう。



 地下12階まで最短距離で行った。

 途中、遭遇した魔物をほぼ一撃で倒して、あっという間に地下12階にたどり着いた。

 ダンジョンの地下12階はほかの冒険者も多く、近くから時折戦闘している音が聞こえる。

 地図と直感を元にまだ探索していないエリアを調べる。

 長い洞窟のようになっているダンジョン。その中には魔物が潜んでいる。

 コボルトが現れた。

 俺に対して今にも襲い掛かろうとしている。

 理性の無いタイプのやつらしい。討伐対象だ。

「ガルルルル」

 俺に対して牙をむいて、刃物を構えている。無謀にも、一体で俺に立ち向かおうとしているのだ。

 こちらも武器を構えた。それなら返り討ちにしてやるまでだ!かかって来い!!と、心の中で挑発しながら。

 刃物を振りかざし襲い掛かるコボルト。

(ふっ、俺に立ち向かったその勇気は認めてやろう。だが、相手が悪かったようだな・・・!)

 コボルトが振った片手持ちの刃物をかわし、前に一歩出て、コボルトの腹を目掛けて、右手の剣を左側から勢いをつけて振った。

 防具に守られていないコボルトの腹は一撃で真っ二つに切れた。

 恐らく即死だったと思われる。

(・・・ナイスガッツだったぜ、コボルト)

 心の中で、相手をたたえた。

 死骸の中から、武器と、お金の入った袋を取り、先の攻略を急いだ。


 四日後。その夕方。

「何なんだっ!」

 酒場にて、俺は世の理不尽を叫ぶ。

 この四日間、俺はダンジョン攻略を続けた。一日一階層ずつ完全攻略し、今日も地下15階の完全攻略をした。

 したはいいが、俺の予想は甘かったようで、ここまでひとつも魔石を見つけていない。

 ちなみに、ダンジョン全体の攻略状況はというと、地下16階でとまったままだった。

 つまり、明日からダンジョン最前線デビューである。

「めんどくせぇ」

 酒を飲みながら独り言をつぶやいていると、冒険者の一人が話しかけてきた。

「兄ちゃん、そこの・・・黒髪の・・・冴えない兄ちゃん」

「えっ、俺のことですか?」

「おう、ここで黒髪といえばお前しかいねぇじゃねえか」

 小柄でひげがすごい。しかし横に太い。この人はドワーフか。

 うん。冴えないなんていってほしくなかった。後、なんだったんだ、さっきの俺を呼ぼうとしたときの間は。

 とりあえず、それは無視しておこう。

「何の用ですか」

「ああ、ここ最近がんばっているじゃねえか。毎日完全攻略決めて」

「はい、ありがとうございます」

「その頑張りを見込んで頼みてえことがあるんだが」

「な、何ですか」

 これは厄介だ。いわゆる個人宛の頼みごとということで、ギルドを経由させずに直接頼まれる仕事である。

 それは、名の知れた冒険者に頼まれることが多く、ギルドの仕事と違い、自由に報酬を決められる。

 しかし、非正規の仕事なので、ギルドの仕事以上に危険なこともある。

 報酬に目がくらんで危険な薬の取引の手伝いをした結果、逮捕されたり、最悪殺されたりすることもある。

 仕事はしっかりと聞いて備えなければ。

「ある魔物を倒してほしい」

 それは、近くの森にいるキクロプスを倒せというもの。

 キクロプスとは、巨大な体を持つ爬虫類である。ドラゴンの一種といわれるほどの巨体と防御力、炎ブレス攻撃も持っている。強力な魔物である。

 それと戦うなんて、よっぽどの報酬がないと、やる気が出んな。

「断ります」

「そこを何とか」

「じゃあ報酬は何ですか」

「俺に出せるものなら出そう」

 ならば、この旅の目的である、あれを要求しよう。

「じゃあ・・・・・紅の魔石でお願いします」

「え・・・・」

 どうやら予想外だったようだ。

「お前、まさか魔石のためにここに着たのか」

「はい」

「・・・・・ここ数日の完全踏破もそのためなのか?」

「はい」

「何でそんなに魔石がほしいんだ?」

「もっと強くなるためです」

「ほう・・・」

 俺に向けられる、見定めるような視線。

 俺は、相手に一つの疑問を持った。

「逆に聞きたいんですが、何で、そいつを俺にやらせたいんですか?自分で倒したり、ギルドに依頼を出したりとか。ほかにも方法はいくらでもあるじゃないですか」

「・・・・・ああ、自分じゃとても倒せねぇほどの強さだった。後、近頃ここらでも話題になっている、“二刀の魔法剣士”の強さがどれほどか気になったんだ」

「それはありがとうございます」

 話題になっていたんだ、俺のこと。

「だが、魔石は持ってねぇんだ。紅どころか、普通の魔石も持ってねぇ」

「じゃあこの取引は無しということで。すみません」

「ああ、こっちこそすまねぇな。面倒なこと言っちまって」

「いいんですよ。がんばってくださいね」

「・・・お互いに、な」

 結局、キクロプス討伐クエストは成立しなかった。

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