第32話 この気持ちはなんだろう―――アリス

 エンテの町随一の美少女、アリスは何かを考えているようだ。


 いつもと同じはずなのに、頭にある人のことが浮かんでいて、彼の顔が見えると、どきどきして、胸が痛くて、苦しいんだ。

 病気かなぁ。でも、おなかはいつも通りにすいているし、ただの疲れかな。

 でも、一度彼の顔が見えなくなると、とっても不安になるんだ。

 何でかはわからないし、ちょっとおかしいのかも。

 だけど、悪いこととは思えないんだよね、これ。

 さっきから…………さっきあたしたちを助けてくれたときから君と話したいんだ。君の話を聞きたいんだ。君の声を聞きたいんだ。

 あ、あの人が近づいてきた。ちょっと話そう。

 そういって歩いてきたジュンヤに近づいていって、「ジュンヤ君」と話しかけた。

「え、何」

 彼はちょっと顔を赤くさせて振り向いた。アリスは顔を耳まで赤くして、話した。

「ね、ねぇ。ちょっと話したいんだけど、いいかな」

「うん。いいけど、顔真っ赤だよ」

 えっ。妙に顔が熱いと思っていたらそんなになっていたの。やっぱりあたしおかしいのかなぁ。でも、

「平気だよ。大丈夫。それよりも、さっきのすごかった。ありがとう」

「こっちこそ。あの時は君がいないと、死んでたよ。本当にありがとう。あと、今度“ワンダーランド”と一緒にクエストをすることにした」

 ワンダーランドとは、アリスたちが加入している冒険者パーティーで、紳士的な騎士クラスの少年、リーダーのラビ、気まぐれ猫系女子の僧侶、チェシャ、そして町で一、二を争うほどの美少女でだいぶ強い魔法使い、アリスの三人パーティーである。

「え、ほんと? 嬉しい!」

 アリスははしゃいだかのように言った。これは彼女の本心だった。

「え? 何で」

「わからない。でも、嬉しいんだ」

「そうなんだ。君が喜んでくれて、俺も嬉しいよ」

 そういって微笑むジュンヤ。

 どうしよう、キミのことを見ているだけで、胸が高鳴っていくんだ。

 もっと話してたいんだ。

「ところで、ほんとに大丈夫なのか?頭から湯気が出ているけど」

 えっ。大丈夫なはず……あっ、やばいかも。顔がものすごく熱い……。

「やばいかも。じゃあ、また今度ね」

「うん。お大事に~」


 そういって立ち去っていくジュンヤ。

 そんな彼をぼうっと見つめるアリス。


(この胸のどきどき、今まで14年間生きてきて初めて。この気持ちはなんだろう)


 これが恋であることを、彼女はまだ知らない…………。

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