第5話 謎の声

 その夜、急に目が覚めた。何かに呼ばれているような気がした。

『教会に来い』と頭に響く声。

 困るんですけど、明日冒険者としての初仕事ですけど。

 考えてもどうせ目は覚めてしまっている。暇だから行くことにした。


 教会では、なんか、白いひげを長く伸ばしたおじいさんが待っていた。ちょっと見覚えがあるような。「やあ、待っていたよ」

「すみません、お名前お伺いしてもよろしいでしょうか」

「わしは冥王神ハデスじゃ」

 ……名前を聞いたらあの世で一番偉い神様の名前を名乗った。この爺さん大丈夫か。

「ほら、あの時会ったじゃろう。わしじゃわし」

 今度は対面オレオレ詐欺か。駄目だ、多分ボケてる。

「わしじゃよ。覚えておるじゃろう、お前さんがこの世界に来た日の」

 …………今なんて言った。俺が異世界転生したことは誰にも言っていない。知っているのは俺と、後は……

「あっ、あの時の神様」

「そうじゃ。やっと思い出したか」

「それで、何で来たんですか」

「訊くと思ったわい」

 当然だ。

「本日はお前さんに大事なことを伝えに来た」

 大事なことってなんだろう。


「お前には………………転生時特典チート能力与え忘れてた(てへぺろ☆)」


 ・・


 ……は?



「いやぁ、すまんのぅ」

「すみません、意味がわからないので説明してください」

 どうやら、ひげのおじいさん――ハデスによると、異世界転生した人には特典として、好きな特殊能力や武器が与えられるらしい。どれもこれもが反則級に強い。つまり、チートというわけだ。

「それが俺には与えられなかった、と」

「そうじゃ。忘れてしもうた」

「ちなみに年を聞いても……?」

「3日前に332歳になったとこじゃ」

 俺の22倍以上だと!? 呆れて言葉も出ない。

 どうすればいいのかわからないので帰ろうとしたら、「少し待つのじゃ」と止められた。

「今度は何ですか」

「話はまだ終わっておらんわ」

 何なんだ。

「お前さんには、ささやかな見返りを用意した」

 チート能力の代わりといったらよほどすごいものなんだろうな。金か、それとも特殊能力か。

「お前さんにはこれをやろう」といって出してきたものは、本だった。この世界の基礎知識という題名の立派な本だ。

「これには簡単な魔道書もついておる」とハデスが解説を加える。

 嬉しいけど……チート能力と見合うものなのか、これ。

「すまぬ。これしかなくてのう」

 とりあえず帰った。

 帰ってからじっくり読んだ。魔法も覚えておいた。そして、朝になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る