三月二十八日、二十九日

 二十八日。

 擂鉢すりばちをかかえて胡麻和ごまあえをつくる。むかし祖母から教わった仕方で、醤油しょうゆと砂糖だけを加える味はだれにも評判がよい。

 鉢からのぼる音と香りとを感じながら長く修行者の気持ちで擂粉木すりこぎを動かしていると、胡麻に照りがでてくる……祖母はこれを「油が出る」と言った。

 それからあとの調味料と、菜ものとを和えてつくり置く。食事時に、じわりとしみたのをはしでとる嬉しさ。


 二十九日。

 ことしもアカシアが咲く。やわらかく黄いろな花がふかふか揺れるのは、妖精が一等の色した布を手に入れるため時季のつむぎかえたのだろう。

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