三月二十四日、二十五日

 二十四日。

 草取りをするに庭でしゃがんでいると、土のしたから無数の芽がわくように不思議に思われることが途方もなくわいてくる。生きることや死ぬことやそのほかいろいろの。どこか息苦しい気もする。呼吸に余計があるのかしら。……

 「憂鬱症メランコリーではなくて」「イヤ二日酔いだ」だれか話していると思えば庭に由来する小精こびとがふたり。草根のついた土塊つちくれみたいな鼻をうごめかしている。(かれらは花の匂いをいでばかりいるので顔面を肥大した鼻におおわれている)

 「春のかみさんが酒気を撒きすぎるんだな。あてられちまう」「気つけがすぎるのね」「そう。すぎるってのは、なににしろよくない」

 そういうことだったか、と聞いているうちに寒気がして、「いけない、いけない」片付けもそこそこに、そそくさと家へ入った。


 二十五日。

 畑の隅で花韮はなにらが咲く。淡い青紫の星形がれているのは可愛らしい。せまい道に馬酔木あせび薄紅うすべにじんちょうも。

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