三月十一日

 朝昼を気もちよく濡らした雨はいつの間にあがって、夜のいま星あかりが降っている。

 春の宙に誘われて散歩。

 道のとちゅうにある、薪を積んである家の八角の窓がよわよわと点滅するのは、なかで天井扇がまわっているのだろう。ちょうど映写機が立てるようなひかりの波。


 朝も昼も歩きがいのある村だけれど夜の感覚は殊更に好い。

 暗やみが髪に頰に吐息をかける。やわらかいな、やさしいな、うれしいな。

 西の山におりていく三日月は金紙につつんだチョコレット。風に溶けだして季節を甘くあたたかくする。

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