一月二十日、二十一日

 二十日。

 本屋へいく。特に買うものもないけれど、いまなにが並んでいるのか見るのは楽しい。

 同じように、だれかと本の話をするのも好き。教えてもらったらすぐに読みたくなる……と書いて、ここで交流のある方々からも、いくつかの本との出会いをいただいたことを思う。先日読んだホルヘ・ルイス・ボルヘスの『砂の本』もそう。

 ……だれかがひらいた物語をまただれかがひらくこと。手と手のあいだで繰りかえし生息いきるもの。凝縮ぎょうしゅくされた時間の不思議さ。……


 二十一日。

 歩きながら満月の出を待つ。首から双眼鏡をげている。

 村をゆっくり一周したあたりで、東の林のさらに向こう、山の際から頭をだす月さま。

 ふたつののぞくうちに、すすすと昇ってくる。あの音のなさ。遠くの気球か風船か。気球としたらだれが乗っていて、風船としたらなんのしらせだろう。

 表面のくぼみ、影なんかが紅茶のしみに見える。いや紅茶で描くというのは実際あるので、そういう絵なのかもしれない。あちらではああいうのが流行っているのだと思うと可笑おかしくなる。

 あんなに大きく描いて、派手に明るいのだから、きっとサーカスが飛ばした広告だろう。よく見ていよう。いまに下のほうから、着飾った象や三角のはたきテントが連なってくるだろう。

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