一月二十二日

 夜の電車に揺られて街へ出る。並ぶじゅの枝には無数の電球がかかって星のよう。……ここが星のる街ならば、そらへときらめきが発つその時には大勢のひとが集まって見送るのだろう。……いまは人影もまばら。


 観たい映画のために来たのだけれど、まだすこし早い。古書店のだいだいの明かりが道をはさんでにじんでくる。自然とそちらへ足が向く。

 木の床の、やや手狭に思われる店内で、けれどもどの本も丁寧に背表紙を見せている。最近、気が付くと開いてしまうのは、安野光雅の絵本『ふしぎなえ』。遊び心とみつさとを同時に感じる。

 ……数十分の物色ののち、荷を増やさずに店を出る。夜の古書。目に残る文字の残像。物語がありそうに思う。


 映画館。半券をにぎって指定のスクリーンに行くと、だれもいない。座席も七十ほどしかないので広すぎることはないし、貸し切りのようで嬉しい。せいせい真ん中に陣取る。

 開始間際になって、ひとりかふたり入ってきたようだったけれども振り返らなかった。……ベルの音。わずかに落ちる客電。静けさ。……

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