四月十三日

 手紙を何通いくつか書きおえる。なんやかやと理由をつけて遅筆になるわたしに何年も付き合ってくれている、ありがたいひとたち。


 夢。十年あまり前の記憶。

 光は金蜜きん色。小粒の蛙がはしる生家の庭。

 おおきくて瑞々みずみずしい黒岩。きめの細かな苔。鏡葉。みどり、翠。

 風。やわらかな風。あたたかくある、やさしすぎる生命の愛撫。


 生あるすべてが怠けず、おごらず、自らの鼓動を守っていることの、どれほど幸福なことか。

 むせかえる生のにおいのなかに、確かに死があることさえも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る