四月十二日

 蜂蜜漬けをするのに柑橘かんきつを買う。柚子をもっと大きくしたようなすがたで、聞き慣れない名前のもの。いてみると、厚い果皮のしたにさわやかな黄水晶がひかる。

 酸味と苦味とがありそうな見た目でいて、むしろ軽い砂糖まぶしくらい甘い。蜂蜜の相手には不向きかと思いつつ一緒にびんへと詰めてしまう。ふたつ残ったので、これはそのままいただく。


 夜。風がない。水田は漆黒しっこくの映写幕となり、木や道や、薪や屋根やそっくり浮かべている。

 おとぎの世界が近い。目をとじて沈めば、夜の国、水の国、どこへといけるだろうか。この入り江は半球を映すことがかなうので、そらへの案内もくだろう。

 『李太白』を思う。瑠璃るりだまのなかに封じこめられた草入くさいり水晶ずいしょうの世界。その水底で、酒利きをする魚の詩仙。やがて金星へとかえ謫仙たくせん。……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る