第6話 赤白コンビは最強です

「まずロックについてですが、何がダメなのか、歴史を通して教えまーす! 皆さんが大好きなロックですけれど、かつて、この国をダメにしたものの一つです! まず、この音楽に熱狂的になっていた人は、将来のことなんてまるで考えず、今さえ良ければ良いと考える人だらけでした! 刹那的って奴ですね! 子供の性は乱れ、飲酒に喫煙に、違法なドラッグが蔓延! それで、百年前の偉い人たちは相談して、この音楽を規制することにしました! これが皆さんの知らない、この国の歴史でーす!」


 玖ユリがグッと唇を噛んだ。

 悔しいのだろう。

 玖ユリはロックに関しては人一倍詳しい。

 そんな歴史は嘘だと、心の底から叫びたいのだと言う事が、夜シルにはひしひしと伝わっていた。


 部ノは「アハハハハハ!」と笑い、玖ユリに向かって、言った。


「何か言いたそうですねぇ、木村さん?」

「……何でもないです」

「何でもないことは無いでしょう? 先生が言ってる事、何か間違ってますかぁ? どうなんです? 一応聞いてみますけど、木村さんはお酒、飲んだことありますか? タバコは? セックスの経験は? キスは? 自分で自分を慰めたことはありますかー?」

「な……」

「どうなんですか? 先生にこっそり教えて欲しいなぁ! ほら、答えて、答えて」


 銃を玖ユリに向ける部ノ。

 何がこっそりかと、夜シルはイラついた。


 ――お酒やタバコなんて、大人だって手に入れるのが難しいじゃないか。

 あんな高価なもの、子供の俺たちがどうやって手に入れるって言うんだ?


 それに、俺も遊ヒトも女の子と付き合ったことは無い。

 第一、告白してフラれたばっかりなんだぞ?

 玖ユリだって、好きな人を追っかけて、ずっと片思いしてるって言ってたじゃないか。


「……わ、私、どれもありません」


 玖ユリが震えながら答える。

 顔が赤いのは、怒りだけでは無いのだろう。


「本当ですか? まぁ、口ではなんとでも言えますからねぇ!」

「ふざけるな……!」


 夜シルの怒りはもう、爆発寸前だった。

 叫びだしたくて、仕方がなかったのだ。

 だが、それは遊ヒトの小さな声でなだめられた。


「夜シル、落ち着け……! あまり無茶なこと考えるな」

「……くそっ」 


 その横顔を見ながら、夜シルは思う。


 ――さっき、部ノは『魂を連れてきた』と言っていた。

 なら、やっぱり、この遊ヒトは自分の知ってる親友なのか?

 例えそうだとしても、遊ヒトは、自分が死んでいることに気づいているのか?


 いや、顔を見ると、どうもそんな感じはしない。

 もしかすると、自分が死んでしまったことに気づいていない可能性がある。


 ……親友が二回も死ぬなんて、そんなの、嫌だ。


「そうそう、素直なのは良いことですよ? とと、それでは本題です! 先ほども言いましたが、規制されているにもかかわらず、ロックを愛好しちゃってる皆さんには、当時の恐ろしさを存分に味わってもらいます! この授業で、体制に逆らうと言う事がどういうことなのかを理解してもらいますから! 私が鬼で、鬼ごっこをします! 見つけ次第、銃を撃ちますので、その時はみじめに死んでください!」

「なっ……」


 ――みじめに死ね?

 鬼ごっこ?

 何が補修授業だ。ふざけているのか?


 夜シルは再び怒りで身を震わせたが、部ノはそんな夜シルのことなど気にもしない。

 銃を構え直すと、脅すようにして続ける。


「まず、皆さんには学校の中を自由に逃げてもらいまーす! 先ほども言いましたが、追い付いたら問答無用で撃ち殺しますから、必死で逃げてくださいね! まぁ『自由に』とは言いましたが、自由過ぎると混乱しますよね? 保健室に手当の道具があるので、とりあえずはそれを目標にしてください! 木村さん、出血大丈夫ですか? 鬼ごっこ始まる前に、そのまま死んじゃったりして」


 夜シルはゾッとして振り向く。


 玖ユリの顔色が悪い。


 ――死ぬ? 木村が?


「それじゃあ今から、数えまーす! 5分経ってから私は動き始めますから、教室から出て行ってね! いつでも行って良いよ! でも、教室を出て行く時、どっちに逃げたか見られるのも不安かな? なんなら目隠ししてても良いよ? ほらほら」


 部ノが自分の手で目を隠す。

 と、その瞬間、遊ヒトが机を持ち上げて、部ノに投げつけた。


「きゃ!」

「夜シル! 今しかねぇ! 銃を奪うぞ!」


 無茶をするなと言ったのはお前だろと思いつつ、夜シルも自分の机を持ち上げ、投げつけた。

 部ノは怯み、拳銃を取り落とす。


 思った。


 ――そうだ、やっぱりこの遊ヒトは、俺の親友だ!

 息、ぴったりだもんな!

 やるぞ、遊ヒト! 反撃だ!


「な、何するんですか! このクソ餓鬼ども!」


 部ノは慌てた様子で拳銃を拾い上げる。

 だが、確実な隙がそこに出来ていた。


 すでに遊ヒトは右方向から距離を詰めている。

 そして夜シルは椅子を持つと正面から突撃し、振りかぶった。


 ――行けるぞ……!

 上星東高の赤白コンビは最強だ!

 銃を奪って、こんな夢から脱出しよう!


 ……だが、すぐさま轟音が響いた。

 銃弾は二発、発射されたらしい。


 転がる金属の筒が、二つ。


 一つは、夜シルの持ち上げていた椅子を粉々に砕けさせながら吹き飛ばし、もう一発は、遊ヒトの首元を貫いていた。

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