第2話

_____今日も私は、言われた通りの衣装を身につけ、言われた通りの椅子に腰掛け、目の前の鏡とにらみ合いながら、終わりましたの声をきけるまで待った。

「はい、終わりましたよ」

どうやら、終わったらしい。······相変わらず、メイク下手だなあ。

「······そんなこと、分かってますし。」

「······何がだ?」

まあ、こいつが何に対して拗ねながら返事をしているのかは分かりきっているのだが。

はあ、と大きな溜め息を吐くとこいつ······サイグウは言った。

「いい加減心のなかの言葉口に出して言うの止めてください。」

やはり。

「······すまん。だが、私的に思うんだよ。君には、メイクの技術よりも外見の方をもっと磨けば良いのではないかとね。」

そうだ。サイグウはメイクよりも外見の方が断然金になると思う。

私は知っている。世の中では、こういう顔のタイプの事を所謂「美男子」ということを。彼は別に性格が悪い訳ではないし、寧ろ良いほうだ。気が利くし、人の事を考えて動くことができる。

「そりゃあ、パシリされ続ければ皆そうなりますよね」

「そうなのか?ていうか、また声でてたか?」

「堂々と出てましたね」

「そうか」

「いや反省してくださいよ、貴女のお陰で何回僕の心抉れてると思ってるんですか」

「まあまあ、そう怒るなって」

そう言うと、サイグウはまた拗ねたようで、顔を少し歪めながら口を開いた。

「ていうか、ヒモロギさんもその口調直したらどうです。貴女仮にもモデルだし。」

ヒモロギはサイグウのその言葉を聞き終えると、ちっちっとわざとらしく口を動かすと、「分かってないねぇ」ということばに続け、

「私の口調が売りになっているのではないか。はあ、これだから美男子は困るねぇ」

それをきいたサイグウも負けじと言い返す。

「褒めるのかディスるのかどっちかにしてください、、、しかも、それ言ったら僕だってそのヒモロギさんでいう「下手なメイク」で人気になっているようなもんじゃありませんか!!!!」

一瞬、部屋の中は気まずさを漂わせる無音になった。但し、一瞬だが。

「······。あ、このパン美味しそう。ヒモロギさん、今度この店一緒にどうです?」

「···。ああ、そうだな、何だ、奢りか?」

「······はあ、良いですよ、別に。」

「なんだその返事。」

そんな会話を続けている間に、自分の順番が来たようだった。

「ヒモロギさん、出番です。」

ヒモロギのマネージャーの女性が呼びに来たようだ。

「あ、ああ、いま行く。」その声に釣られたようにヒモロギも返事を返した。

「さあ、そろそろ行かねばならない。じゃあな、メイク下手のサイグウ君。」

「···なっ。ゴホン、頑張ってくださいね、変人口調のヒモロギさん。」

「一言多いわ」

「貴女が言えないと思います」



____この会話が今日の最後だろう。きっと。

そんなことを考えている内に、部屋の扉が閉まる音がして、彼女が会場の表に向かう音が廊下から聞こえた。

その音が聞こえなくなるのと同時に、表からの歓声の声。彼女のファンによるものだろう。

「······はあ······。」

本日3度目の溜め息。

彼女は僕の事を綺麗だ、美男子だ、なんていってくれるけど、自分自身の魅力には分かっているようで一ミリだって分かっていない。

「······ヒモ、ロギ。」

そんなことをほぼ無意識で言っていた自分に吃驚して、思わず自分自身の顔面殴って中々の怪我をしてしまったのはまた別の話。

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