第8話 入学?

昨日のドラゴンとの一戦から一晩が明けた。

今日は俺が学園に入学する日だ。

王都支部のシスター達が迎えに来てくれる手はずになっている。


広場には昨日倒したドラゴンの死体が置かれ、少し血なまぐさい。


俺的には村を離れる前に大きなプレゼントをすることができたと思っている。

なんてったってドラゴンは、角も牙も目玉も内臓も鱗、肉、血、骨に至るまで、残すことなく高価なのだ。

それにこのドラゴンの鱗は魔法をはじく効果がある。こいつを売れば村は一生安泰だろう。

しかし一度でいいからドラゴンの肉を食べてみたいものだ。

ドラゴンの肉は絶品らしいからな。



一度は王都支部の人たちが来たが、ドラゴンの死体とそのドラゴンを誰が倒したかを聞くと、もう一度王都に戻っていった。

やっぱり王都支部の人は地位が高いのかシスター達は終始ペコペコしていた。



しばらくすると、教会の転移陣からぞろぞろと王都支部のシスター達や、王都の研究者たちが出てきた。 


「村長はいるか?」


出て来て早々、周りの人より立派な服を着た、ブクブクと太っているおっさんが尋ねた。


「私が村長ですが…」


教会の前で出迎えていた村人の中から一人の老人が手を挙げた。


「ちょっとこっちに」


おっさんの近くに立っていた痩せ細った男が先導して教会の中に入っていった。

後に分かったが、ブクブクと太っていたおっさんは、この領地の領主でグレマン伯爵。痩せ細った男はグレマン伯爵家の文官であった。


文官に連れられて行った村長は10分ほど経つと、青ざめた顔をして出てきた。

村の皆は心配したが、とても話しかけられる雰囲気ではなかった。

村長の次に呼ばれたのは俺だった。

周りに居たシスター達が心配そうにしていたので親指を立てて、グッ!っとしてみた。

シスター達の安堵する顔を確認してから教会の中に入っていった。



「君がレイエムちゃんであってるかな?」

「うん!」


ここは普通の子供の女の子らしくいってみよう。そっちの方がこのおっさんたちの真意が探れるかもしれない。子供だと思って何も話してくれない可能性もあるけど…。


「あのでかいドラゴンを倒したのはレイエムちゃんなのかな?」

「うん!そうだよ!」


あまりの子供らしさに自分でも引いている。普段のシスター達が見たらドン引きするだろう。


「あのドラゴンを私たちに譲ってもらえないかな?」

「だめだよー!あれはこの村のだもん!」

「でもこの村はこの領地の伯爵様の者なんだよ」

「そんなのおかしいよ!あのドラゴンは私が倒したものだもん!所有権は私にあるはずだよ!」


子供っぽい口調で難しい単語を少しずつ入れていってみる。


「じゃあ、何かと交換しよっか!レイエムちゃんにおいしいご飯を一杯上げるからドラゴンと交換しない?」

「いやだ!あれは私のなの!誰にもあげないの!」

「じゃあ、「もうよい!」


文官が他の案を出そうとした時。今まで部屋の中央にある椅子に腰かけていた伯爵が立ち上がり口をはさんだ。


「おい娘、私の愛人になれ。拒否権はない」


それだけ言うと部屋から出て行ってしまった。


はぁ?この齢の女の子を愛人?拒否権はない?頭言ってんじゃねーのか?!誰がてめえみたいなブサイクで太った加齢臭臭いおっさんの愛人になるか!鏡見てから出直してこい!


文官さんがこっちを見て驚いてみている。


「どうかしましたか?」

「全部口に出てましたよ…」

「…」


マジすか!やっべ、やらかした―。


俺の急に変わった口調を見て驚きの表情をしている文官。


「やっぱりそれが本性だったんだね」

「やっぱり?」

「ここのシスターさん達に事前に聞いていたんだ。男っぽいけど将来有望だから面倒見てほしいって」

「なんでただの伯爵家の文官にそんなこと」

「実はね、僕の父と兄は王家に仕えていてね。父は現宰相、兄は王宮の文官をしているんだ」


それからは文官の家族の事や伯爵の事、この伯爵領の事など、いろいろと話したり話し合ったりした。


「さっきの伯爵のことは父や兄にかけあってみるよ。多分大丈夫だと思うけどね。それに王国としてもドラゴンを一発で倒せる貴重な人材をこんな辺境の伯爵領に置いとくわけがないからね」

「ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

「そういえばまだ名前を聞いてなかったんだけど」

「ああ、確かにそうだったね。僕はレオニード・アドルフ。これからもよろしくね」


そう言って握手を交わすと二人で部屋を出ていった。


外では村人やシスター達、お父さん、お母さんが出てくるのを心配そうに待っていた。お父さんに限っては無理やり入ろうともしたらしい。伯爵の護衛に泊められていたらしい。

そんなに長く話していたつもりはなかったんだけどな。


「「レイエム!」」


お父さんとお母さんが抱き着いてくる。


「なになに?どうしたの?」

「お前、伯爵様の家に奉公しに行くんだろ。頑張れよ」ヒクッ


お父さんは泣きながら俺の肩を掴んで涙を拭っている。


「え?そんな約束していないんだけど」

「「「え?」」」


親と伯爵の声がはもる。


「貴様!私を愚弄するつもりか?!私を誰だと思っている!平民ごときが調子に乗るなよ!」


そう言って拳を上げ、振りかぶったその時…


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