第7話 図書
そうか、あのドラゴンは…
教会で習った一匹のドラゴンを思い出す。
■
それは雨で外で魔法の実践ができなかったある日のこと。
「今日は読書にしようか。届かない本とか読めない字があったら言ってね」
そう言って、シスターは自分の本を一冊選んで、部屋の隅に座って本を読み始めた。
少しの間本棚とにらめっこしていると、一冊の本が目に留まった。それは
「ドラゴン図鑑ex」
国語辞典並みに分厚いそれは全500ページからなっていた。
目次のような所にはこれを書いた人のなのか、自分の経験談が連々と書き並べられていた。
曰く、この本に書かれているドラゴンとその物語はすべて作者の経験談である。
曰く、このドラゴンたちのことを他言してはならない。
と。
不思議には思ったが、今は気にすることなく、本のページを一枚一枚めくっていく。
途中には、赤い逆鱗を持つ一角のドラゴンや、真っ黒い鱗を持つ漆黒のドラゴン、日本の神話などに出てくる龍なども絵付きの物語で載っていた。
そして、最後のページの方。そのドラゴンは載っていた。
■
「このドラゴンと遭遇したのは僕がペナサス帝国に渡っている時だった。
そいつはいきなり空から現れたのさ。銀色の羽を羽ばたせて。
そいつは威嚇で咆哮して、僕の帽子を吹き飛ばした。何とか僕はその場に踏み止まったが、辺りの木々は根こそぎ吹き飛ばされていたよ。
そいつは咆哮で吹き飛ばなかった僕に人語で話しかけてきたんだ。
「ニンゲン キサマ ナニモノダ」
片言ではあったけどしっかり聞き取ることはできた。
それからはそいつと友好的な関係を築いていこうと思ったんだけど…
いきなり尻尾を薙ぎ払って攻撃してきたんだ。それも常人なら目にも止まらぬ速さで。
まぁ、僕は避けたんだけどさ。その時思ったんだ。ドラゴンにも表情ってあるんだなって。
そいつは驚いた顔をして少し後ずさりした。もちろん逃がす気はないが。
僕は魔法を一発、そいつにお見舞してやったんだ。けれど、全く効いた様子がない。小さな火球をいくつも作って放ってみたけど、先と変わらず全く効いた様子がないんだ。
僕が魔法ばかり打ち込んでいると、そいつは得意げになって前進してきた。
僕は少し考えてみた。なぜ魔法が効いた様子がないのか。なぜ魔法を撃ち始めてから得意げになったのか。
導き出せた答えは一つだった。そいつは魔法が効かない。
僕は一旦魔法を放つのを中断し、近くに倒れている木をそいつに向かって投げつけた。案の定そいつは気を避けて上空に避難した。やはり物理攻撃は苦手らしい。
そこからの戦いは、そいつは防戦一方だった。僕は徐々に魔法の威力を上げていき、一つのことに気づいた。
初級、中級なら完全防御されてしまうが、それ以上になると少しは食らうらしい。
そうなるとあとは簡単だった。大出力の魔法を一発ぶつけてやると、そいつは空の彼方まで逃げていった」
そして次のページをめくると、10ページほどが黒くインクで塗りつぶされていた。少し途切れて見える字は「戦、終、竜、伝」と書かれていたが、読めなかったのでその本は本棚に戻して次の本を手にした。
■
そうだ。あいつには魔法が効かない。大出力の魔法以外は…
残念ながらこんなちんけな村に派遣されているシスター達では中級までが限界。しかしそれではあいつは倒せない。ここは俺が援護をする出番だ。
俺は指先に魔力を集中させる。使う魔法は日常魔法の「ライト」。
空中に一文字ずつ大きく、一画一画に重みを乗せて書く。
過去俺が見たアニメの中で憧れていた、人造人間が使っていた兵器。
【陽電子砲】
指先に急速に集まりだした眩い光。それを空を飛び、シスター達を傷つけている爬虫類に向けて、放つ!
「レイガ~ン!」
何故だか叫びたくなってしまった。
指先から放たれた光は一瞬でドラゴンに到達し、胸部を貫通、消滅させ空彼方に消えていった。
【地形図】でシスターたちを見ると、猟師が二人、シスターが一人怪我をしている。これは急いで行かないと危ないかもしれない。
【飛翔】
空に飛び上がると、先ほど倒したドラゴンが森の一部に横たわり、木々を床にして臨終している。
その少し奥を見ると、13人の人が怪我をした三人を庇うように人を組んでいた。どうやら近くに居た魔法のたちの群れに囲まれているようだ。なぜこんなに魔物が居るんだろうか?
とりあえず、辺りの魔物をどうにかしよう。
【柵】
シスターたちの足元の土が盛り上がり、頑丈な鉄の柵が伸びてきた。これで一応は大丈夫だろう。シスターたちはポカーンとしているが。
「大丈夫ですか~」
空からやってきた俺に何か言いたそうだが、皆が呆れたような、諦めたような顔をしている。
「ちょっとどいてくださいね」
少し居づらい空気の中、手前に立っていた猟師たちをかきわけて怪我をしている三人の所に到着した。
猟師の二人はどちらもドラゴンの攻撃を受けたようで肋骨がほとんど折れており、腕は不自然な方向に曲がっている。
シスターは自分の魔力を制御できず自爆したらしい。体の表面が焼けただれている。
とりあえず【完治】を使う。とっさのことで「治癒」という漢字を思い出せなかったのだ。
三人を白い光が包むと、徐々に傷口は閉じていき、変な方向に曲がっていた腕は元の状態に治っていった。五秒もすれば傷はすべて治り、元よりも元気になっていた。
皆が動ける状態になると、村に戻ることになった。え?ドラゴンの死骸?なんでか皆からの視線の訴えで俺が持つことになりましたよ。とほほ…
■
村では家からちょくちょく出て、辺りの状況を伺っていたり、俺もやるぞ!という気合の入っている村の若者が居たが、俺達が返ってきたのを見ると、皆が家屋から出てきて、広場に集まり始めた。
木が倒れる音や、魔法の光は村を始めとした近隣の村まで届いていたようだった。
村のみんなは俺がドラゴンの死骸を運んできたのを見ると、心底安心したような顔を見せ始めた。
今日はもう夜も遅く、祭りは切り上げられた。第一、ドラゴンが来た時点で今日の祭りは終わっていたのだが。
そんな村の皆が寝静まった頃、森の中から俺達を観察していた目が、村から離れて去っていった。
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