第33話 嵐の前の……
「砲撃用のキャノンはちゃんと肩に繋いで! そこ、装甲の噛み合わせがずれてるよ」
フォックスのゼロを弄りながらも回りのちょっとしたミスにも気を配るユリ。メカニッククルーの最年少ながらも一番最前線を経験しているからこそ成り立つ貫禄が見てとれる。後ろで束ねた髪が、ユリの凛々しさをいつにもまして引き立てていた。
「突撃班のギアの装備編成はどうしますか? 」
「出来るだけ本人の要望に答えて、でも小銃、ナイフ、拳銃の基本構想は変えないで」
「了解です、調整かけます」
Hiveで運用しているギアは全て『改良型第四世代』と呼ばれ、ゼロで得られた「企業ごとの規格の縛りを受けずに武器を運用する」というコンセプトのみを取り入れた変則カスタマイズ機で構成されている。
「やっぱり、使える武器が多いのが嬉しいですね」
「でもその分パイロットの腕前が要求されてくるんだけどね」
いわば今までのギアの戦法が中性の軍隊戦闘に近かったのに対して、改良型第四世代は現代の歩兵に近い運用方法が可能となったのだ。この戦い方の差は大きい。
「あとキャノンを繋いだあとはちゃんと照準の設定をパイロットと一緒に合わせること。お互いに生存率を上げるためだよ!! 」
「はいっ! 」
「どうだ? 内部の情報は確保できそうか? 」
「厳しいです。恐らく機密情報トップシークレットは回線にすら繋がれていないコンピューターによる管理のようで、実際に入らないとデータが回収出来ません」
「分かった。ご苦労、施設近辺を監視しているメンバーを呼び戻して、突撃班に報告してくれ」
レオン率いる情報収集班は、主にサイバー系統を担当する者と、実際に建物の近辺まで接近して外観等のデータを確保する組に分かれて行動していた。
「こちら偵察チーム、外観の写真をあらかた撮り終わりました。データの合成と立体イメージの作成お願いします」
ちょうど外回り班からも連絡が入る。任務はきっちりと達成したらしい。
「こちらレオン、了解だ。早く帰って来て作戦準備に取りかかってくれ」
「了解」
今回の任務では情報収集班は制圧作戦発動後は後方支援に回りギアによる砲撃を実施する事になっているため、先に施設の大まかなイメージをつかむ必要があった。これもフォックスがしっかりと作戦を見越して班を編成しているからこその事前行動である。
「さて、データは転送されてきたか? 」
「はい、これだけあれば半日かからずにイメージの作成が可能です。あとは内部の構造なんですが……… 」
「それはもうすぐ終わりそうだ。先にイメージの作成を始めておいてくれ」
「あいよっ! 」
目の前の光景を見てレオンは感動していた。であった頃は民間パイロットに毛が生えた程度だったというのにたった二回ほどの実戦経験でここまで伸びてくるとは思いもしなかったのだから、感動するのも頷ける。
「……やはり指揮官としては落第点だな私は」
自身の指揮官としての過去を振り返ってみたところでこれほど効率の良い運用を出来たためしはないだろう。だからこそ、フォックスの偉大さをより深く知る事となった。
「ロバートたちには申し訳ないことをしたな」
「さ〜あて、情報班はなんと? 」
「現在、外観イメージの作成に取りかかったそうです。半日もかからないと」
「ほいほい、じゃあ全員しっかりと装備の確認や操作系統の調整を終わらせろ。イメージが完成したら即プラン確定に入っていくから」
フォックスたち実働班はというと、他の二班が仕事を終えない限りは動けないため、ここ二日間は武器の手入れとギア整備の手伝いしかしていない。勿論、全員がその意味を分かっているがために士気はしっかりと保たれている。
「隊長、一つ良いですか? 」
整備し終わった拳銃を台に置いて界人がフォックスに質問した。
「おん? なんだね」
「なんで俺が施設突入メンバーにいないんですか! 対人戦闘力で選ぶなら……… 」
すると、横にいた他のクルーが口を開いた。
「おいおい、万が一流れ弾に当たったらユリちゃんをおいていっちまうのか? 」
「なっ!? おい馬鹿っ、そういうことをでかい声で言うなって!! 」
相当大きな声で叫んだため、界人の声は格納庫全体に響き渡った。勿論、格納庫にいる全員がなんの事であるかを理解し、多いに笑った。
「そういうこった、しっかりお留守番しとくんだな。でだ、」
フォックスがレオンの方を見る。
「おーい、機密情報は抜き取れそうか? 」
「ダメだな、内部回線イントラネットにすら繋いでいないようだ」
「やっぱり隔離しておく方が機密性を保てるから仕方ないか。さて、外回りチームが帰ってきたら作戦を発表するからしっかり準備を済ませろよ! 」
「はいっ!! 」
「リークは成功したか? 」
「はい、流石に人為調整の情報は差し止められましたがなんとか」
「そうか」とフェルディナンドは頷いた。既に彼らの危うさに気付き始めていたフェルディナンドは既に今回の情報を国連理事会にリークしていた。
「彼の、フォックス=ジロー=ヴァレンタインの力量ならばそこら辺の情報まで確保してくれるさ、あとは天に任せよう」
一星産業の施設から離れていく専用送迎車の中でフェルディナンドは秘書から顔を逸らしてため息をついた。
「もう、止められないか…… 」
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