第34話 闇の深さ

「作戦開始まであと10秒」


フォックスの掛け声に合わせて、対象施設周辺の建物の影に隠したギアから数人のパイロットが降下してくる。ハッチが閉まると同時に、先程ハッチが開かなかったギアが一斉に手榴弾を構える。


現在、香港と呼ばれる区画そのものが一星イーシン産業の持ち物であり一星産業意外の施設は全て閉鎖している。そのため、施設周辺には廃墟となる建物が多く、ギアの隠蔽にはもってこいの立地だといえた。


「始め!! 」


一斉に手榴弾が投げ込まれ、施設のゲートが破壊される。


「突入! ギア搭乗組は全速で移動したのち倉庫区画を破壊せよ!! 」


黒い戦闘服に身を包んだフォックスたち潜入チームは破壊されたゲートを全速力で走り抜け、見事研究所内部へと侵入した。



作戦開始の数時間前、最終ブリーフィングが行われた。


「うっし、作戦の確認を始める」


施設の立体イメージが完成してすぐ、全員で作戦概要の共有を行うこととなった。フォックスの一声に場の空気に緊張が走る。


「まず作戦目的な。大きく二つ、一つは非人道的に行われていると推測される研究データの回収、もう一つは施設そのものの破壊になる」


話を区切って全員の顔を確認したあと、フォックスは立体イメージを使って解説を始めた。


「しかし、問題の研究データは恐らく独自のデータバンクを使ってるだろうからそもそも物理的に外部からデータが抜き取れなくなっている。なので、今回は研究所の破壊をする前に多少のアクション映画ごっこをする必要性があるが……… 」


深呼吸をするフォックス、その態度に場の緊張が更に膨れ上がった。


「どうせやるなら花火でも上げるつもりで適当にこなしましょう。君ら現役の軍パイロットよりも優秀だしね」


張り詰めた空気が一気に笑いへと変わる。予想通りの結果を得られたのかフォックスの口角も緩んだのが見える。


「じゃあ概要確認するよ。まず俺と愉快な5人組が研究所に侵入して強引にデータを回収する、この間陽動チームはギアの攻撃で侵入チームのギアを隠してある所を偽装しろ。出てきた敵ギアは全て破壊してよろしい」


ついでフォックスはレオンたちを見る。


「情報収集お疲れさん、最後に一仕事、施設破壊時の支援砲撃だけやってほしい。恐らくはギアも兵隊も大体やられてるだろうから的当て感覚で宜しく」


フォックスが資料の束を机に置き、スクリーンを消したと同時にクルーが立ち上がる。全員、やる気に満ち溢れた表情である。


「さぁ、チャキッと仕事終わらせてとっとと休みを頂きましょう! 」


「オォォー!! 」


咆哮のような掛け声が格納庫に木霊した。




「人員確認クリア」


「後方確認よし」


「ロック解除、トラップなし」


「室内スキャン完了、敵の姿なし」


四人がそれぞれに一つの事に集中しつつ、チームとしてバランスを取る。恐らく現役の軍人から見ても彼らの動きは目を見張るものがあるだろう。


「突入」


バン! と扉が開けられ、五本の銃口が伸びる。敵がいないことを再度確かめた後、五人は銃口を下ろした。


「しかし不気味ですね、こうも薄気味悪い暗さだと」


「さぁて、サーバーはどこかな…… っと、あったあった」


フォックスはおもむろにメモリースティックをサーバー直結のデスクトップに接続する。


「あとは任せる」


「了解っす」


フォックスに付き添う隊員の一人がフォックスと場所を交代する。彼は淡々とパソコンとの格闘を始めた。


「しかしチーフ、ここ物凄い数の水槽ですね」


サーバーがある一帯は元々何かの研究をしているのか、円筒形の巨大な水槽が所狭しと並んでいる。それらは部屋の暗さと相まってかなりの不気味さを醸し出していた。


「何入れてんだろうな、案外とんでもないもんだったりして」


フォックスが冗談混じりに独り言を溢すと、パソコンとにらめっこをしていた隊員が顔色を変えてフォックスたちの方を振り返る。


「に、人間です…… その水槽の中身はクローンです!! 」




「何事だっ! 」


VIP用の寝室にて仮眠をとっていた劉は、爆発音と振動によって眠りを妨げられた。


「失礼します! 」


スーツ姿の男たちが数人、ノックもせずに劉の部屋に押し入った。ただならぬ空気に劉も流石に失礼を咎めることはしない。


「ギアによる襲撃です!西側研究棟に敵が7機!! 」


敵襲と研究棟の破壊、劉はその二単語で敵の狙いを察した。


「中央地下はどうなっている? 」


「現在確認中です」


「ならば先に外のハエ共を掃除する。クローン兵に改良型ギアを与えて出撃させろ」


劉の命令を聞いて男たちはすぐさま部屋を出ていった。すぐに着替えを終えて劉はほくそ笑んだ。


「そろそろ本格的に事を移さないと不味そうだ、アルフレッド君に進言しておくとしようか」

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