第25話 日本到着
「さて、アルバートさんも来ることだし準備を進めないと」
軽くシャワーを浴び終え、フェルディナンドが着替えを要求する。スタッフがすぐにスーツと新品のシャツをシャワー室の手前に置く。
「ところでロバート君、気分はどうだい?あまり良いものではないだろうがね」
それもそのはずで、つい一週間程前まではこのトレック・インダストリアルの造ったギアと戦っていたのだ。ロバートからすればかなりの嫌がらせと受け取られても仕方がない。
「……問題ない。たかが一人のパイロットに戦場を選ぶ権利などない」
しかし、ロバートからは嫌悪感どころか感情の一欠片も感じられない。
「これはあれだな、『調整』が固すぎたか? 」
無論、いきなりこうなった訳ではない。いわばドーピングの究極形で、その調整をトレック・インダストリアル社が行ったというだけである。
「米軍兵士でヨーロッパ軍に売る技術を試験するなんて、素晴らしくハイセンスだとは思わないか?……おっと、今の君にはセンスの欠片もなかったね」
勿論、彼の調整は『パイロットとしての』能力を極限まで高めるための調整で、その他の部分はかなり乏しくなっている。精神安定剤と人工ホルモンの投与によって反射神経や操縦技能は高まったものの感受性が欠如しており、感情の露出が行えなくなったのはほんの一例で、メリットとデメリットを書き連ねるだけでちょっとしたレポートが出来上がるレベルである。
「まぁ、今の君からは危険な香りがするからそれはそれで悪くないかな」
「……嗅覚で危機感を察知できるのはネコ科とイヌ科の生物くらいだぞ」
「おっとっと、比喩も通じないんだよね。悪い悪い」
ここまでしてまで強化するのにも理由があった。かつて、ロバートの目標『だった』男はかつて、戦場に私情を持ち込むことを禁忌としていた、その延長線上である。要は『捨てた』のだ。
「時間だ」
「分かってるって。先に車を手配しておいてよ」
一方、東京入りを終えた界人たちは観光を兼ねてとある場所を訪れていた。
「ここは……一体どういう施設ですか? 」
「入れば分かるって」
入り口にはでかでかと『第三エリア生物学研究所』と書かれている。要は旧世紀の動物園と博物館が融合した施設である。
「でも、今日は『一般解放はしておりません』って看板がたってますけど? 」
「まぁ、付いてこい」
そういうと、フォックスは赤い紐の付いた入場証を渡した。そこには『STAFF』書かれていた。
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