第24話 日本へ

「熱くなれ〜ゆ〜め〜見た〜あし〜た〜を〜♪」


操縦席で歌っているフォックスの声が格納庫まで届いている。元々ギアを三機は載せられる輸送機に『ゼロ』一機しか積んでいないため、その声はよく響いている。


「なんであんなに大声なんですかねぇ…… 」


「仕方ない、ルーレットで一目賭けを二回も当てたんだ。私もビックリしたがな」


つまり、現在のフォックスはとんでもなく懐が潤っているのだ。恐ろしく高いテンションも気になるが、界人には更に気になる事があった。


「でも、緊急で出動がかかるってそんなに大きな任務なんですか? 」


「界人は聞いてないの?ただの観光だってさ」


「それは言い過ぎだな、ユリ」


飛行自体が安定したのか、フォックスが操縦席から離れて格納庫の固定式シートに腰を降ろした。


「まず任務だが、ただの調査という名目だ。そこは気にしなくて構わん」


備え付けの冷蔵庫からビールを取り出し、プシュッと良い音を立てながらプルタブを起こすフォックス。当然ながら任務中である。


「そういや、一目賭けなんてどうやって当てたんだ? 」


レオンが不思議そうな顔をしつつ歩み寄る。フォックスは任務内容の書類をレオンに渡しつつ笑顔で答えた。


「盤の回転速度と玉の早さ、そして最初の跳ね方しか見てない。そんだけあれば100%当たる、それが物理よ」


界人は驚いた。まさか物理をそんなところで披露しているとは思わなかったのだ。しかし、それは『盤の回転速度や諸々の条件が数字的に理解でき、かつそれらを使った演算をBETの終了までに暗算出来れば』の話で、とてもではないが人間ではない。


「なんでそこまで出来るんです? 」


「お金がかかれば誰だって出来るさ。そのための物理だろうが」


「いや、そこを聞いてはいないんですが…… 」


見えてるということがおかしいとは思わないのだろうか。しかし、それを聞くのは野暮だと界人はは口をつぐんだ。


「任務の話に戻るぞー、調査地域は日本(エリア3)な」


経済成長と共に激減していく自然に対し、環境保全を定めた法律が存在する。西暦2268年成立の『国際環境保全法』がそれに当たり、その条文の中に『環境保全を行っても経済に影響が発生しない国を優先保護区域エリアとする』というものがあり、北欧、オーストラリア、日本がエリアに選ばれている。


そのため日本は、この時代には珍しい『自然が保たれた』国になる。勿論、生物学を研究したりするためにはある程度は手入れが必要で、林業と漁業の規模と就労人数が多くなっているのが特徴である。


「でだ、そもそも人口密度が高い国だから違法取引の聖地でもあるんだとよ。それらの取り引きの摘発が主な任務だってさ」


「ギアがゼロしかないんですがどうするんですか? 」


「日本には支部があるから、そこの第三世代を借りるんだとよ」


今回は伏せるべき事実もないらしく、フォックスはあっさりと自分の書類を渡している。


「まぁ正直な話、お上の情報を基に違法取引の取り締まるんだと。それ以外は基本自由活動らしいのでまぁ、観光といえば観光にはなる」


「なるほど…… 」


そして、フォックスは界人にさらなる資料を渡す。


「あと、今アルコール入れたから着陸はお前がやれ。な? 」


「やっぱり…… 」


界人は渋々と操縦マニュアルに視線を落とした。





「アルフレッドさん?私です、フェルディナンドですよ」


空港のVIPラウンジにて、一人の青年がどこかに電話をかけていた。座席のプレートには『トレック・インダストリアル会長代理 フェルディナンド=バックリーjr.』と書かれている。


「例の設計図、頂きましたよ。既に日本のラボにて組み立てが始まっています」


「………いえいえ、もうすぐアルバートさんの会社の技術員も加わりますし、一週間以内には試験稼働が可能かと………はい、ではそのように」


通話の終わった電話をラウンジスタッフが持っていく。


「さて僕のSPさん?君の名前を教えてもらっても構わないか」


「……ロバート。ロバート=ダルトン」


「ではダルトン君、そろそろ行こうか。観光旅行を楽しむとしよう」




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設定解説:通貨と人々の趣味


服装や趣味といった文化的な面での変化はほとんど無いものと捉えています。思いっきり変えてしまうよりかはリアリティーが増すと思ってます。


通貨はドル一本化しています。ユニバーサル・ファクトリー社が国連の方針に基づいてドル中心の成長戦略を行った影響ですね。ですから、ドルの保障元は『国連』になってます。

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