第23話 前略、屋上より その二

屋上で並ぶ二人。フォックスが煙草に火を点ける。


「……ふぅ、暇だろ? 」


一息目を吐き出しながらフォックスが微笑む。確かに、界人には今するべき報告書の類いもなくこれといってすることもない。


「はい。昔はゲームなんかよくやってたんですが…… 」


「お、ゲームか。レトロか?VRか? 」


この時代にも新作ゲームは存在する。しかし、これもコンセプト切れによるのか対人ゲームがほとんどで、ストーリー物は発売されていない。


「レトロですよ。シューティングはシミュレータよりつまらないし、パズルはやり込み勢には勝てませんし」


「まぁそうなるわな、RPGゲームをやるならレトロになる」


なんと恐ろしい事に、たった二息で既に一本目が半分以下の長さになっている。


「最近吸い始めたんですか? 」


「いや、戦死になった頃からずっと。これでも肺活量は落ちてるんだぜ? 」


「どれくらいですか? 」


「8500から7900。やっぱり吸うもんじゃない」


この人はマシーンか何かの類いなのだろうか。界人はそう思っている方が付き合いやすいのでは?と感じていた。


「……ところで隊長、なぜ僕を呼んだんですか?他にもいたでしょうに」


「いや、お前には話しておく必要があってな」


フォックスが急に真面目な顔になる。いつもの朗らかな雰囲気のものではなく、作戦前の張り詰めた顔だった。


「恐らく、この戦争を引っ張っているのはユニバーサル・ファクトリーだろう」


「……理由は?」


界人は全く話が理解できなかった。恐らくはこの話をするために録音機器がないはずの屋上に呼びつけたのだと思うが、界人にはフォックスの発言の根拠が理解できない。


「おかしいとは思わないか?なんで他の三社は規格を合わせられないのにユニバーサル・ファクトリー(ここ)はこうも簡単に規格を合わせられる? 」


「あっ…… 」


界人はやっと意味が理解できた。そして、次なる疑問を連想させる。


「じゃあ、そのために国連はあえて『Hive』を直轄にしたのですか? 」


「そう。恐らく今回の一連の事件は国連法廷が裁く。それに基づいてテクノ・フロンティアはユニバーサル・ファクトリーに併合される」


「そんな事したら経済バランスが…… 」


「そこでだ、他の二社も必然的にユニバーサル・ファクトリーに歩み寄ろうとするとは思わないか?まるでそうなるかのように」


「もしそうなったとして、各国政府は企業の出資がないと成立しませんよ? 」


「あぁ、そうなりゃ後は『人類そのものの統合政府』が出来上がるわな。そして宇宙基地やらコロニーやらの技術を発展させられる事になる」


「待ってください、それって…… 」


「そう、戦争によって人口を減らした上で宇宙移民計画が実行できる。余った人を捨てる場所を宇宙に作れば地球人口は一定に保てるだろう」


「そんな考えで人類を企業が支配すると!?そんな発想は…… 」


「じゃあ、そんな国連の暴走を止められる組織がいくつある? 」


「………まさか…… 」


それが導き出す答えは一つだけだった。そう、『Hive』はその時のための国連理事会の苦肉の策といえるのだ。


「だからこそ、第五世代がうちにある。他にもたくさんの警備会社を持っているのに、うちだけにな」


「……その時、隊長ならばどうされますか? 」


「答えは簡単さ、『上の指示に従う』だ。それがパイロットのお仕事よ」


そして、フォックスは界人の肩を握った。


「だからこそ、お前はみんなを守るんだ。それは俺の仕事ではない、いや、俺では出来ないんだよ」


フォックスの目の奥に光る物にすべての感情が乗っている様に見える。それは、隊長命令というよりは懇願であった。


「……少し、格好を付けるとしようか」


「……… 」


再びフォックスが煙草を口にした。


「昔、大好きなマンガがあったんだ。大昔のもんだがロマン溢れる良いマンガでね、モブキャラにすら魂のこもっていた凄い作品だよ」


フォックスの語りは止まらない。普段はこんなに語る事がないから、なおさら界人は驚いていた。


「その作品のキャラにな、『人間が本当に死ぬのはいつか?』って台詞があったんだ。一体なんだと思う? 」


「……分かりません」


「そのキャラはな、『誰からも必要とされなくなった時だ』って言ってやがんだ。これが最近やっと分かるようになったのさ」


恐らく、記録上戦死をした時のことを思い出しているのだろうか。しかしそこまでは界人にも分からなかった。


「で、昔から『老兵は死なず、ただ逝くのみ』って言葉があってな。これもよく分かる」


「まだそんな歳ではないじゃないですか、41ですよ? 」


「いや、パイロットの最盛期は35だよ。それを超えると反応速度やら反射神経が鈍ってきてたまらん」


どこを見るともなく空を見上げるフォックス。その横顔は、少し寂しそうな空気を纏っていた。


「だから、もう他人を守って戦うなど出来ない。それはお前の仕事だ」


再びフォックスが微笑む。しかし、そこに先程の陽気さはなかった。


「惚れた女は守り抜け、たとえ命を懸けてもな」


界人の肩をポンポンと叩き、フォックスが屋上通路の扉を開けた。


「どちらへ? 」


「カジノ。調整が終わったってレオンが言ってるから、多分ついでに飲みに行く」


「そ、そうですか…… 」


「ほれ、お前もユリと遊んでこい」


フォックスはその場を後にした。


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設計解説:戦争の理由


まず20年間も世界で戦争するか?という疑問ですが、現に朝鮮戦争は20年以上終わっていません。この世界では基本、ギアを配備してからの睨み合いが戦争の主体です。


しかし睨み合いの間にも武器や本体は劣化し、パイロットの交代も発生します。例の三社はここにつけこんでいるわけです。要は、戦争が終わると儲からない


そこで儲けるために財政ごと国を丸め込んだんですね。だから政府も企業の方針に従わざるを得ない。これが長期化の原因です。


あと黒幕はちゃんといますんでご安心を。

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