第21話 だから戦争は終わらない

「もしもし、ハイネさん!話がちがうではないか!! 」


偉く懐かしい声だと感慨を受けつつも、全く変わらない直情ぶりにフォックスは肩を落とした。


「はぁ〜あ、で?話が違うとはなんだ? 」


「……貴様、何者だ? 」


これにはフォックスもショックを受けた。出撃の後は必ず一緒に飲みに行くほど慕われていたというのに、15年も経つと声すら思い出せないようだ。


「あぁ、たかが新人パイロットに『hunter』の精鋭が10機も墜おとされたってか? 」


「なぜそれを!?まさかスパイか!! 」


「そんなに興奮すんなって、元上司を相手によぉ」


「そんなものおらん!! 」


「そりゃあそうだわな、勝手に戦死にしてやがるんだから」


「何を言って……ま、まさかあなたは……… 」


ようやく気付いたらしい。電話越しからも分かるほどにロバートが動揺し始める。


「そんな……あの損傷で生きているはずは…… 」


「ほぉ、それでお前の事はよ〜く理解した。やはりお前は指揮官に向いていない」


やはりこいつでは駄目だったか。フォックスはすぐに後悔した。


「それに、今回のパイロットはシミュレータと実機訓練のみの本物の新人だよ。それに勝てないなら所詮は訓練不足だ」


「違う!それはあなたが…… 」


「そうやってあるもの無いものにすがり付くから現状が見れないんだよ。だから戦争は終わらないし、永遠に政府が企業の犬に成り下がる」


フォックスの顔が険しくなる。いよいよもって怒りのボルテージは上がっていく。


「覚悟しろ、この度ユニバーサル・ファクトリー社から軍事ギアを専門に扱う民間警備会社『Hive』が結成された。俺はそこのチーフパイロットとして世の中に再び現れることとなる」


ロバートが唾を飲み込む。スピーカーモードのため、その音は明確にフォックスとユリの耳に届いた。


「今回、ハイネの取り調べとテクノ・フロンティアと軍部との癒着、アメリカ軍の戦死報告偽装による生存者の人権剥奪など様々な罪状が『貴様のせいで』アメリカ軍及びアメリカ国家そのものに降りかかることを覚悟しろ。俺は本気で世界を変える、その第一歩は愛する祖国というわけだ」


「そんな事が許されると思っているのか!! 」


この期に及んで逆ギレとは流石の根性だと感心しつつも、現状を見ようとしない電話越しの阿呆にフォックスは全力で怒りを覚えた。震えながら携帯を握りしめると、何かが割れるようなパキパキ……という音を立て始める。


「そうやって戦争を続けるのか?そもそもなんの大義もなく、己の権力と金が欲しい馬鹿共のために若い命を最前線にすてるのか?ふざけるな!そういう腐った発想が人として終わっていると言っているのが分からんのか!! 」


携帯にヒビが広がっていく。とうとう堪えきれなくなったのか、足元のギア用の銃弾を蹴り飛ばした。ゴォォォンと鈍い音を立てて弾が転がる。


「もういいさ、俺は本気でこの世界を許さない。俺個人の怨念なんぞという細けぇ話はしていない、ただこの腐れ切った体制を覆すために事を起こす。その手始めが『Hive』だ」


フォックスの圧が強すぎるのか、必死に抵抗していたハイネすら微動だにしなくなった。


「だから、せめてお前は兵士らしく戦場に埋めてやるからよ、今度会うときは棺桶でも用意しておくんだな」


携帯の耐久力が限界を迎え、フォックスの手の中で弾け飛んだ。その背中から滲み出る怒りは、ユリすら動きを止めてしまうほどに強く、思い。数度の深呼吸の後、フォックスは普段の表情に戻った。


「悪いな、もう怒らないって決めてたのによ」


「仕方ないよ。人間なんだから」


ユリが拳銃を受け取る。恐らくこの馬鹿を射殺したい衝動に駆られていると感じたらしい。そして護送車の座席の崩れ落ちながらフォックスは両手で顔を覆う。


「二人はどこにいる? 」


「順調にこっちに向かってるよ、後十分かからないかな」


「おっしゃ、ならさっさとこいつを本社の支部に放りこんでとっとと帰るとしようか」




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設定解説:ギアの数と価値観


ギアの数は、戦争要員一人に一機配備されています。その代わりに、戦闘要員自体の数は若干減ってます。


撃墜スコアの感覚は『戦闘機パイロットの戦績』よりかは『FPSゲーマーのkillレート』が正確です。それに、撃破されると相当な運がないと一撃死なので、10機以上のスコアを持つ現役パイロットがエース称号を持つ理由が分かって頂けると思います。

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