第20話 これが現実

速度を落とすことなく護送車は走り続ける。敵の装甲車もあえてなのか距離を保ちながら追い続けるが、フォックスは一切動揺しない。


「何をしているんだ!とっとと撒まいてしまえば済むだろうが!! 」


だの


「そんなに装備があるんだからさっさと片付けろ!! 」


だのとハイネが吠えていても一向に無視している。ただ黙々と画面越しの装甲車を睨みつつ、座席の下から取り出したスナイパーライフルを組み始める。


「フォックス君!そんなちゃちなスナイパーではなくさっさと機関銃で始末すればいいだろう!!なんでそんな単純な事もできんのかね!! 」


「だったら一つ知識をくれてやるから黙ってもらえるか? 」


あまりに堪えかねたのかフォックスが組み終わったスナイパーライフルを突き付けながらハイネに迫る。流石に恐怖がわいたのかハイネは静かに首を振った。


「なら一つ、この時代の装甲車は『歩兵の攻撃に対抗するための』もんだ。つまり、俺の手持ちの機関銃なんかじゃそうそう墜ちてはくれないのさ」


マガジンをセットし、ボルトを引く。軽い音を立てながら弾丸が装填されたことを確認し、セーフティをかける。


「つまり、ちゃんと装甲車あれの行動力を奪うなら、古いアンティークの対物スナイパーがベスト。常に最新武器は『最新技術にしか』対応しないんでな」


するとフォックスはハイネのシートベルトを握りしめ、セーフティを外す。


「今だ!90km/hまで減速!! 」


「分かった! 」


ユリが全力でブレーキを踏む。耳に突き刺さる摩擦音を響かせながらかなりの勢いで護送車がつんのめる。距離を保ちながら追いかけていた装甲車も慌ててブレーキをかけ始める。


「………よし! 」


ユリが再びアクセルに足をかけた瞬間を見計らいフォックスがルーフを開け、上半身を外に乗り出す。


「もーらいッ!! 」


状況に飲まれ、戦闘の準備が整っていない装甲車のフロントに一発。目標を捉えた鉛弾はフロントガラスを突き破り、着弾後のヒビに沿って赤い花を咲かせる。運転手を失った先頭車両はスリップしながら回転し、続く二台をなぎ倒しながら爆発炎上した。


「このまま道なり、次のパークで安全確認」


ルーフを閉じ、フォックスは通信用のモジュールを起動しながらユリに命令した。




「さて、ここらでよろしいかなっと…… 」


パークに着いた護送車が停まる。そしてフォックスはハイネにスナイパーの銃口を向ける。


「なんのつもりだね? 」


ハイネは微動だにしない。先程の動揺が嘘に感じられるほどに。


「後数分待てば答えは出るさ。うちの部下は負けないんでね」


「何を言っているんだ!あれはアメリカ軍の特殊部隊『hunter』だぞ!?2対10で勝てるわけないだろ!! 」


そこまで出たところでフォックスの表情が緊張から解放されるように微笑みに変わった。


「ほぉ、黒のカラーリングを使う部隊は他にもあるのにあれを『hunter』のギアだと言い切れるのか、中々にお詳しい」


何を言っているのか分からないという体を貫こうとするハイネに容赦ない一言を浴びせる。


「早く言いなよ、『アメリカ軍に新型を鹵獲させて報酬を得るつもりでした』ってさ」


「貴様、この私をスパイ呼ばわりするつもりか?そんなことしてただで済むと思ってるのか? 」


証明出来るならしてみろと言わんばかりの作り笑いで応戦するハイネ。その時、ハイネのスーツの裏からバイブレーションが鳴り始める。


「少し待ってもらおうか」


余裕の態度で携帯を取り出すハイネ。しかし、画面を見たとたんに動かなくなった。


「……… 」


「早く出たらどうだ?まぁ、恐らくアメリカ軍なのは分かりきった話だが」


「何を言っているんだね?そんなことは…… 」


「早く出ろっつってんだろうが、あ? 」


スナイパーを座席に置き、ピストルに持ち替える。往生際が悪いのか、はたまた決まりが悪いのか、ハイネは携帯を握りしめたまま動かない。


「そんなに出れないなら俺が代わりに出てやるよ。ほれ貸しな、無理なら携帯ごと頭をぶち抜くぞ? 」


フォックスの圧に屈し、ハイネは大人しく携帯を差し出す。その手にユリが手錠をかけ、親指同士を傑作バンドで固定した。フォックスが画面を確認するとロックがかかっている。ハイネの頭に狙いを定めて拳銃を構える。


「番号は?」


「0083」


「よろしい、至っていい子だね」


番号を打ち込むとあっさりと画面が切り替わった。罠の類いではないことを確認して発信元を確認すると『米軍』の二文字がでかでかと表示されている。


「ちったぁ捻れよ名前を」


呆れた顔でフォックスが電話に出る。もちろんスピーカーをONにした上で、ユリは音声を録音している。


「もしもし聞こえるか、こちらロバートだ。ハイネ副社長!話が違うではないか!! 」



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