第19話 初陣その2

ケープタウンを出発してから既に10時間が経過した。未だ一度の敵襲も受けることなく快調に車を飛ばすフォックス。界人とレオンもギアで周辺を固めつつ並走する。


二足歩行で走った場合ギアの重量では道路が破損するため、市街地を走行する際は靴の要領で『ダッシュローラー』と呼ばれる車輪付きギミックか空気圧で浮遊する『ダッシュホバー』を使用する。今回はレオン機も界人機も護送車を配慮してダッシュローラーを使用している。


「そろそろ休憩を挟む。次のパークで停まるぞ」


「こちらレオン、了解」


「界人、了解」


フォックスとハイネ副社長の乗る車は防弾車である。耐射撃性能を上げるために窓すらない。運転席はギアのコックピットと同じ技術が使われているため、外からは完全な鉄の塊である。


「ユリ、次のパークで停車する」


「了解」


もちろん、運転手はユリである。しかも内部に侵入されたときの事も考慮して、運転席は完全にアクリル板で仕切られている。


「しかしフォックス君、随分とけったいな車だねこれは」


ハイネがフォックスに話しかける。手入れをしていたショットガンをシートに置き、フォックスがハイネの目を見る。


「ここはヨーロッパ軍とアメリカ軍のぶつかる最前線ですよ?これくらいしなければ秒でスクラップですから」


戦闘区域を縦断する経路を通っているため、この高架道路を使う車は他に見当たらない。休憩スポットとして各地域に点在する拠点『パーク』も水洗トイレが稼働していれば奇跡に近い。


「ところで、なんで君はそんなに重武装なのかね? 」


「もうじき分かりますよ」


ハイネが不思議がるのも仕方がない。この狭い車内に重機関銃とショットガンを積んでいるのだ。カーゴパンツの膨らみ具合といいブーツの音といい、ナイフや拳銃も持っているだろうか。今から一戦やれそうな雰囲気がフォックスからは滲み出ている。


「襲うとしたらこの辺りになりますから」


フォックスの一言の次の瞬間、耳をつんざくような爆音が轟いた。胸の無線機が反応する。


「ギア確認!数は10、機体はテクノ・フロンティア製!! 」


モニターを全周囲に切り替える。いかにも鈍重そうな丸いボディは間違いなくテクノ・フロンティア製の格闘用第三世代機である。つまりはアメリカ軍、もしくはその辺りに近い軍事組織だろうとフォックスが推測したその時、ギアの足元に隠れながら接近する装甲車の影を確認した。


「ユリ!敵さんのおでましだよ、150km/hを維持しながら道なり!! 」


「了解! 」


ダブルクラッチからのフルアクセルで護送車が一気に加速する。フォックスはこの急展開をどこ吹く風とばかりにハイネにシートベルトをかける。


「何をする! 」


「見て分からねぇか!敵襲だよ!! 」


そして無線機の送信スイッチを入れる。


「合流点変更!敵のギアを足止めし、最悪地面に叩き落とせ!! 」


「了解! 」


「了解!死ぬなよフォックス!! 」


レオンと界人のギアが急旋回しながら停止する。その間を抜けるように護送車が走り抜け、あっという間にいなくなった。



敵のギアに囲まれつつ、レオンと界人のレイヴンは背中を合わせる。あの分厚い装甲はそう簡単には破壊できない。第三世代といえ、格闘用カスタム機は装甲の厚さが第一世代クラスである。


「さて界人、初の実戦が2対10の気分はどうだ? 」


「やってやりますよ!訓練の様にはいきません」


「ならしっかりと着いて来い!! 」


レオン機が一気に距離を詰める。相手がダッシュローラーを脱ごうとした隙に『ローラーを利用して』敵機に近づくレオン。その機動性の差は明らかで、レオン機の突き出したナイフは確実に敵の関節を捉えた。右肘にナイフが刺さったのを確認すると、背負い投げの要領で敵を道路に叩きつける。


「後ろ!! 」


投げ終わりの隙を突こうと敵が動くも、界人機のスナイパーが火を噴く。射撃寄りにカスタムされたレイヴンの偏差補正は的確で、対第一世代狙撃用の徹甲弾は敵のコックピットに風穴を開ける。


「やるじゃないか、見直した」


そのまま腕を地面につき、回転しながら蹴りを入れ瞬く間に迫り来る敵をはねのける。バランスを崩した敵の胸部に容赦なくライフルを食らわせる界人。二人のバランスは絶妙な整い方を見せた。


「いくつだ? 」


「僕が2で、レオンさんが1ですね」


「それは負けていられないな! 」


続け様にナイフを取り出し突撃するレオン。もちろん、製造会社もバラバラなものを十数本装備しており、ついでのサブマシンガンを除けばレオン機に射撃武器は装備されていない。界人機と比べて脛と前腕の装甲が厚くなっており、より突撃兵らしいフォルムをしている。


「ーーッセイ!! 」


ナイフの柄にはレオンが独自に作ったワイヤーラックが取り付けられており、刃が折れない限りは常に回収出来るように工夫がされている。


「……凄いな…… 」


もちろん、ナイフの一撃程度で勝敗は決しない。しかし同じところを狙い続けたり、ナイフを突き刺して動きを封じつつ肘や膝の装甲の厚さを利用した打撃格闘を交えるなどの工夫により、レオンのレイヴンは格闘だけで相手を必ず仕留めるハンティング・マシーンと化していた。


「次が来るぞ!! 」


「はい!! 」


もちろん界人も負けてはいない。射撃用にカスタムした機体の肩には反動抑制用のスプリングモジュールを搭載し、発射時のブレをほぼゼロにすることが可能となっている。その上、規格のバラバラな銃器を扱えるために戦場での汎用性は高く、レオン機に劣らぬ高い水準を保っている。


「それにッ! 」


後ろを取ろうとした敵の懐に深く潜り込む。格闘戦で懐に飛び込む行為は『相手の動きを封じつつこちらの極きめを確実に当てる』中国拳法にみられる動きであり、混戦状態にあっても必ず有利な状況を生み出す体の使い方である。


「射撃しか出来ない訳じゃないんだよォ!! 」


界人が射撃援護に徹しているのは『レオンとフォックスには格闘技術が劣る』だけなのだ。しばしの組み合いの後、腰の拳銃を抜き取りゼロ距離で三発お見舞いする。流石に装甲が厚くても、密着状態で85mm口径の銃弾を食らえばひとたまりもない。


「……ッよし!これで4…… 」


「片付いたか?」


「はい!! 」


この混戦の中ダッシュローラーを履いたままで、しかも壊さずに戦闘が終了した。二人は敵の全滅をレーダーで再度確認し、ハッチを開ける。


「終わりましたね。あっけなかったです」


「よし、とりあえずフォックスからの通信を待つとするか」


────────────────────


読者からの疑問:戦闘シーンはどうやってるの?


単純に『書きたい動きをやってみてから、物理的矛盾の有無を確認している』のが基本です。


まず、お家にある道具として自衛隊の訓練ナイフ一本、日本刀(模造)二本、オートマグⅢ(エアガン)一丁、G-36(電動)一丁がありますので、基本的な動作は実演するようにしています。


その他格闘に関しては、私が古武道『円心流』の門下ということもあり基本はやってみるスタイルです。なお、技に関しては組み手の基礎となるものしか使っていないので、本書を読みつつ二人組で動きを再現することが一応可能です。


なお、動きの詳しい質問については私のTwitterアカウント『@orion1196』にお問い合わせ願います。

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