第15話 界人の思い
フォックスが就任してから二週間がたった。レオンもフォックスも一般人相手とは思えないほどの本気を見せ、界人を含め候補生全員がとてつもない勢いで追い詰められた。
「やっと休日か…… 」
三日間の休日をフォックスが言い渡した瞬間、誰もが口々に言ったセリフである。しかし、界人にはそんな事よりも重大な事があった。
「ユリさん…… 」
実のところ、界人は初めてユリに会ったミーティングの時から一目惚れしていたのである。訓練の合間を縫って何回かトライしたものの、全て「フォックス以上の男になったらね」と玉砕しているのが現状である。
「しかし、フォックス教官以上って…… 」
どだい無理な話だった。操作技術、格闘、座学全てにおいて勝てる要素が見込めない。任務を受け始めたらそうでもないのかもしれないが、今では追い付ける自信すらない。
「だって今もこうしてフォックス教官に呼ばれてる訳だしな…… 」
自分では気付けないような立ち回りの弱点まで看破されたのだ。候補生の中では一番の成績かもしれないが、世界の広さを思い知っていた。
「玄田です」
「おう、入れ」
なぜか教官の自室に呼ばれているのだが理由を考えても仕方がない。とりあえずドアを開いたら、そこには驚くべき光景が広がっていた。
「え、教官……それは…… 」
なぜかフォックスがレオンに膝枕をしてもらっている。しかもレオンの表情は普段とは違う。いつもの厳しい教官の姿はどこにもなく、ただのカップルとしか言いようがない。
「まぁゆっくりしていけ。な? 」
「あの、質問してよろしいですか? 」
「なんだ?」
とりあえずこれを問わなければ話を進められなかった。
「お二人はそういう? 」
「あぁ、それが何か? 」
レオンの口から出た言葉の破壊力のせいなのか、現状に納得がいかないのか、界人はその場に崩れ落ちた。
「嘘だろ…… 」
落ち込む界人を見てひとしきり笑ったフォックスがレオンの膝から起き上がる。
「そうだ界人、今お前が抱えている悩みを当ててやろうか? 」
「え、いや悩みなんて…… 」
ばれるとまずい。なぜか界人はそんな気がして口ごもった。ユリはフォックスに拾われたことを知っているので、娘の様に可愛がっていることが想像できたからだ。
「お前、ユリに惚れたろ? 」
駄目だった。この際は腹を括ることにした。
「実は…… 」
するとフォックスは突然安心した顔になった。
「なら丁度良いや。お前、ユリが欲しくないか?あれはいい女だぜ? 」
そんな事は重々承知している。しかし……
「教官以上の男となると今の自分には…… 」
「あいつ、まだそんな意地を張ってやがったか」
するとフォックスは上着のポケットから一枚のチケットを取り出した。
「ほれ、明日これで映画見てこい。後は分かるな? 」
「え、はい…… 」
チケットを受け取り呆然とする界人の肩を掴むフォックス。
「戦場に私情を持ち込むなって言ってるだろ?悩むくらいならスッキリしてこい」
「は、はい!ありがとうございます!! 」
勇ましく肩を張りながら部屋を出て行く界人を見送り、フォックスは再びレオンの膝に収まった。
「悪くないだろ? 」
「むしろ完璧じゃないか。後はあの子が自分に素直になれれば良いね」
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組織紹介:『Hive』
国連直轄の民間警備会社。最新世代のギアを揃える巨大な組織。
これは第五世代ギアを中心に戦争を終結させる計画の一環として作られており、全ての任務が国連からの請け負いである。
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