フチドーの小さい頃の話

 十二歳の時だった。祖父がプレスマシンに頭を突っ込んで亡くなって二週間くらい経った頃、夢を見た。膝くらいまでの桃色の水が溜まった広い湖で遊んでいる夢で、4メートルくらいある女の人が遠くからこちらを見ていた。私はその人のことをちっとも変に思わず居て当然のもののように考えて、水をすくっては撒き散らしたりしていた。目が覚めてもその夢のことは全然忘れる気配がなくて、変な夢だったなあと思って歯を磨いた。ギイギイギイギイギイギイ。歯を磨くにしては奇妙に金属的な音がした。ギイギイギイギイギイ。私の口から真っ赤な血が溢れだした。私は歯を磨くことをやめた。私の手に握られているのはただの何の変哲もない血まみれの歯ブラシだった。しかし私の歯はのこぎりで挽いたようにずたずたになっていた。私の名前は淵堂ひがし。やがて東へ東へ東へ進んで、イツルァパーサの都へたどり着くようにと付けられた名だ。

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