さよなら、透明人間

西宮樹

鶴来空は、姉の死体を発見する

鶴来空 ー0日



 扉を開けると、僕の姉さんが死んでいた。

 『超研部』の部室の、その窓際。姉さんは、腰壁に体を預けて地面に座っていた。頭を垂れて、その表情はよく見えない。ただ、生気の無さだけは伝わってきた。

 腹部からは赤黒い液体がべっとりと流れていて、その赤い川は床にまで溢れている。湿り気を無くした、乾いた血の匂いが、部室に充満している。

 部室に充満する匂いと色。その全てが、姉さんの死を物語っていた。


「――ね、姉さん?」


 そんな風に呼びかけたって、返事が無い事は分かっているのに。それでも僕は呼びかけてしまう。

 朝の静寂に包まれた部室に、僕の乾いた声が響く。部室の中は、姉さんの死以外は何事もないかのように見えて。姉さんの死だけが、赤い色だけが、あまりにも浮いていた。


「姉さん」


 僕はもう一度呼びかけて、姉さんの死体の傍に近づく。乾いた血の海を踏みしめるたびに、血が割れる音がする。本当は、こうやって現場を荒らす事は間違っているのかもしれない。でもこの時の僕には、それを感じる余裕なんて無かった。

 姉さんの傍に座って、顔を覗き込む。目が閉じられたその表情は、いつも僕が見ている寝顔と変わりなくて。本当に寝ているんじゃいかってくらい、安らかな笑顔だった。

 でも死んでいるんだ。

 姉さんは確かに死んでいる。


「――どうして」


 どうして、こうなったんだろう。

 どうして、姉さんが死んでいる?

 当然ながら、その問いかけに答えてくれる人はいない。



**************************************




 その日、僕の姉である鶴来玲の死体を発見して。

 そして。

 そして僕は――。

 


 

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