第32話 『革命』 その13
「肝心の事を聞いてよ。せっかく、いま出た、うんじゃーなんとかの意味。大体、意味なんかがあるのかしら。」
ぼくがキューさんに、要求しました。
「そいつは、あまりに、ストレートすぎて、信頼性を損ないますからね、後にしましょう。まあ、たとえば、ヒンドゥー語として『彼らは、あるいは、あなたは、誰ですか?』とも、聞こえなくもないです。マラーティ語で、『なにやってるの?』とかに、聞かれるかも。仏教系のお経の一種かもしれませんが、ぼくのデータには無いね。ある種の『秘教』の呪文かもしれないね。また、日本のある地方では、語末に『なんとか、ですらー』と常用する場所がありますから、日本語かもしれないね。しかし、使い方に違和感がありますね。駄洒落の可能性も、ありますね。」
「うん、日本語としては、そのままでは意味を成さないよ。たしかにお経のような雰囲気はあるけどもね。まあ、語呂合わせの類いの線じゃないのかなあ。」
「余談は禁物ですね。慎重に行きましょう。」
そこで、手を挙げた人がいました。
「はい、あなた。」
「あの~~。『主様』、そもそも『うんじゃー まいやら』って、どういう意味ですかあ?」
「ぶ!」
まあ、講師さんにはありがちなことで、こうした質問は、当然に、予想されることです。
しかし、キューさんは、しらっと言いました。
「はあ? あなたがた、ほんとに、由来はともかく、それも、知りませんでしたか? いやいや、無理もないかな。ねえ、司祭殿、この際、やはり、そのような大事なことは、まず、あなたが答えるべきですなあ。もちろん、ご存知でしょうね。」
「うぎゃ。いやいや、もちろんですとも。ああ・・・しかし、ここは、やはり『主様』から、どうぞ。」
なんだ、結局は、誰も知らないんじゃないか?
「ふむ。巫女様はいかが?」
「どうぞ、『主様』から。」
お嬢が、なんだか、昔の歌舞伎のような調子で言いました。
「では主様、この際ですから、わたくしが答えてよろしいか?」
「どうぞ。」
ぼくは言いました。
他には、言いようがないでしょう。
「はい、わかりました。ああ、これは、非常にありがたい呪文なのであるね。わがご尊師さまは、つまり地主様であるが、かつて若き日に、世界の超大国であり、最後までロボットの支配と闘った偉大なインドにおいて修業をしていたね。そこで、太古から伝わる、秘中の秘と言われる、極めてありがたい不滅の経典に接したのであるのね。それは、いまだにその深い山中の寺院からは、一度も外に出たことがないというものなのであるが、また、その言語は、一般では使われない宗教上の秘密の言語なのだが、ご尊師様はその経典を研究し、その力により、ついに開眼したのであった、のね。あなたがたは、この建物が建ったと言う事実を考えなさい。それは、非常に長いものなのだが、一般の人間は、今やロボットに支配されるのに忙しく、すべてをすぐに学ぶことは実際困難であるのね。また、安全性の問題点もあったのね。
そこで、ご尊師様は、その長大な経典の中から、核心となる言葉を編み出したのである。のね。これが、あなた達の唱える言葉の始まりである。その意味は「真の命(いのち)を尋ねよ。」であるのね。これこそ、ロボットにはけっして持ち得ない、人類だけの真実である。あなたがたは、常にその真実を求めるのだ!」
「おわ~~~~~!!!」
「おぎょわ~~~~~~!!!!!」
また、大きな歓声が上がったのです。
皆、立ち上がっていました。
司祭さんも感動して、後ろでおいおいと、泣いておりました。
お嬢とスワンもまた、泣き崩れております。
「まったく、何のことやら。」
ぼくは、つぶやきました。
「これでよいのですね。誰も後では、あまり覚えちゃいないんだから。地主さんが、商社員として、インドにかつて、駐在していたことは事実だしね。」
「はあ・・・・・」
『うんじゃー まいやら うんじゃー まいやら・・・・・・』
高らかに、合掌が続きました。
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