第2話 悪夢(2)

「許してください。許してください。もう年月も経ちました……。だから僕のことを許して。許してよ。何太后さま……。もう二度と悪意ある行為はしません。僕は産まれ変わり、過去の記憶を消し、幸せに暮らしています。だからお願い何太后さま……。もう僕にとりつき、呪わないでください。僕も貴女と霊帝が他界された後に、閣下共々、残酷に殺されました。だから何太后閣下! お許しを! お許しを!」と。


 僕は何故か、いつも最後には、彼女のことを【何太后さま】と名指しをしながら嘆願……。


 と、言うか?


 僕の方が、彼女の気が触れ、逝ったような顔! 恐ろしい顔に怯え、恐れ慄きながら。


 彼女に僕がしたらしい、大罪に対して謝罪と命乞い。


 今の令和の時代を幸せに暮らしている僕のことを呪い殺さないで欲しいと。


 僕は何故か、何太后と呼ばれる彼女に怯え、震え、涙を流しつつ謝罪をおこなう。


 恐ろしい日々! 怪奇現象! ミステリアスな時間、睡眠を続け暮らしているのだ。


 僕が高校生……。


 いや、僕が今プレイをしている【三國志オンライ戦記】と呼ばれる。


 後漢から三國志時代、晋までの歴史をモチーフにしたRPGとSGLゲームが混ざり合ったようなアプリゲームを始めてから。


 僕は毎日魘されるようになった気がするから。


 僕は少し気になり。


 SNSで僕のように恐ろしい恐怖体験をしている者はいないかを調べるのだけれど。


 僕のような恐怖、怪奇体験をした人達の記事はないから。


 僕だけが、こんな恐ろしい思い。


 悲しい思いをしているみたい。


 だから僕は、何太后と呼ばれる女王閣下に。


「何太后さま。許して、許してください。今は改心して善良な市民として暮らしています」と。


「だから許してください!」


 僕は自身の顔の前で両手を合わせ、御経を唱えつつ、祈るように嘆願をする。


 でも何太后さまは、この通りだよ。


 彼女は李儒と呼ばれる男性……。


 生前の僕らしい人物から、城壁の外──地面へと。


 いつも彼女は、頭から落とされる。


 そして落とされ、落下をする最中にね。


 僕の方をジロリと見詰めながら。


「朕がこの身を捧げる。性玩具おもちゃになってもいいから、許してくれとまで、願いでたのに、平然と朕を城壁の上から、地面へと放り投げ殺害をした貴様だけは絶対に許さぬ。許さぬからな。七代まで祟ってやる。そして朕のこの無念を晴らしてやるからな。李儒、董卓よ。わっ、ははは」と。


 何太后と呼ばれる人は、最後には気が触れたように笑いながら僕へと呪いの言葉をいつも漏らし、歌う。


 それも彼女──。


 ドン!


 グシャ! と。


 地面から鈍い音が漏れようとも。


 何太后閣下は、地面から顔を起こす──。


 それも彼女の首は反対方向へと向き──。


 あれほど美しかった顔が、地面に落ちた衝撃で、面影がないぐらい潰れ、血まみれの状態で。


「うぅ、うううっ。李儒……」と呻りながら。


 彼女は最後の力を振り絞り、手を伸ばすのだ。


 それも、自分のことを城壁から落とした男………。


 前世の僕ではなく。


 今の、この令和の時代を生きる僕へと手を差し述べてくる。


 力一杯──!


 自身の華奢な腕、手を伸ばしつつ。


「貴様と董卓だけは絶対に許さぬからな、必ず復讐をしてやる。覚えていろ」と。


 何太后閣下は最後に、こんな捨て台詞を僕へと告げると。


 自身の潰れた顔、血まみれの顔で、ニコリと笑い。


「陛下~、母はここにいますよ~。さぁ~、おいでぇ~」と。


 今度は僕に微笑むのではなく、城壁の上へと、自身の血まみれの手を伸ばし、差し伸べ始めると。




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