第176話 李儒(理樹)と内気な姫殿下【四】(11)

 中の二人、時空内にある緑のオアシス、水辺の祭壇付近で、大変に仲慎ましい二人……。


 まあ、何をしているのか知らぬが、獣のような荒々しい行為と、淡くて甘い吐息と声音を漏らしていることは間違いないようだが。中の二人はそちらの方が余りにも忙しい為に、紀霊将軍が出す、響かせる大きな衝撃音──。響きと、軽い地震のような揺れには気がつかない。気がついていないようなのだ。


 中の若い男女の二人自身が荒々しく、激しく揺れ動いているから気がつかない失態を犯してしまったのだ。


 だから紀霊将軍は安易に易々と障壁を攻撃、破壊を繰り返す。


「本当にどうなっても知りませんからね。姫さまぁっ! 中がぁっ! 空間の中の様子がぁっ!」と。


 彼女は更に主、袁術嬢へと不満を嘆くように漏らしながら。自身の力、武力、魔力を最大値まで高め、己の両腕と下半身にある筋肉へと力を注ぎ込み。障壁破壊と粉砕を繰り返す。続けていくのだ。


 そんな臣下の様子を紀霊の背の後方から仁王立ち、己の艶やかに括れ、締まっている腰へと、両手を当てながら見詰め続ける袁術嬢はと言うと?



 自身へと媚びる訳でもなく、悪態ばかりをついてくる家臣、紀霊将軍に対して。


「紀霊~! 文句ばかり私(わたくし)目に言わずにさっさと壊し、破壊をしてしまいなさい。この障壁を~。そして、中にある空間。小さなオアシスを誰の目にも~。そう、他人、人目につくように曝け出しなさい。早く! 早く~! 曹操の臣下の者や董卓の臣下の者に邪魔をされぬうちに。とっとと、破壊、壊してしまいなさい~。その邪魔な障壁を」と。


 袁術嬢は甲高い声音で、自分自身へと悪態をついてくる臣下、紀霊将軍へと下知を、命令を下し続ける。


 すると? 最後には──。


〈ガン!〉


〈ガシャ!〉


〈バラバラ……〉と。


 何とも言えない。言い難い音が二人。袁術姫さまと紀霊将軍の面前と辺り……。



 そして中から聞こえたと当時に、この黄砂舞う荒れた大地に不釣り合いな緑のオアシス。大変に規模の小さい物ではあるのだが。ポツンと蜃気楼、不知火でも湧き、見えるように大地へと、朧げに浮かび上がってきたのだ。と、同時に紀霊将軍の口から。


「姫様ぁっ! 障壁破壊に成功す! 成功をしましたよぉっ! 姫様ぁっ!」と。


 彼女は歓喜、興奮を混ぜ合わせたような声色で報告。任務達成の知らせの報告を、己の背の後方へと控えていた袁術嬢へと告げる。




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