第2話『メヌーチャ』
セル平和利用宣言から58年。
極東で起きたセル発電所事故による広域汚染。
布谷精子せいこは避難前、第一子を死産。
第二子懐妊後、中絶を薦める夫を残し外国へ不法移民する。
山深い麓で有機農業を営む友人宅に身を寄せ、その後、五体満足の布谷精一郎を出産。
自主避難民、第2世代の精一郎は、こうして避難先の外国で生まれ育つ。
母親は幼い精一郎を森に連れて行き、毎日木を抱かせ瞑想させた。
内面の暗闇に佇むだけだった彼は、 すぐにその森を彷徨う術を身につける。
内面の闇に光が照射され世界が生まれる。
驚異的な進化で日々その境界線は拡張される。
幼い誠一郎は木と会話し、幽体分離さえも学んでいた。
無味無臭、見えないセル汚染に対し激しい恐怖を抱き続ける精子。
彼女の過敏な反応に知性で理解を示しながらも異物として距離を取り始める友人と村人。
精一郎14歳の時、母親は焼身し自死を選択。
彼の心に自分によって母の死が訪れたという罪悪感が生まれる。
精一郎、21歳の夏。
母親の祖国から訪れた撮影隊の助手を務める。
首筋にケロイドの傷跡を持つ木下ケンタは、なぜか母国語を使わず精一郎に英語で話しかける。
ある晩、湖畔でビールを飲むことになる二人。
ケンタはメディア・食品産業に嫌悪感を抱き、世界を肯定できない自身を告白する。
そして、二人はセル発電所事故ゆかりの因果をそれぞれが抱えていることを知る。
撮影隊に参加していた中東出身の無名女優。
彼女に仄かな恋心を抱く精一郎。
ロケ終了後、世界規模の広域停電によって空港に足止めを食らう二人。
無名女優は、ロケ中に見た夢が精一郎の夢ではないかと伝える。
言葉で表現できないその夢の感覚を、
論理の欠如があると知りつつも、
あえて二人はその輪郭を手探りで確かめる。
精一郎、22歳の秋。
母の故郷、帰宅困難区域に初めて足を踏み入れる。
廃墟の実家。
ロウソクと乾燥ホワイトセイジに火を灯し、幼い頃木を抱いていたように廃墟を抱擁する。
廃墟の内面にも森は存在し、精一郎は導かれるようにある場へ通される。
そこはこれまで辿り着けなかった母親の焼身の部屋。
炎に包まれる母親を前に脱力するが、意を決し彼女を抱擁する精一郎。
彼は初めてその死に託された意味を理解する。
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