第2話 和の崩壊

 アニエーロが王位を継承してからしばらく。

 ゴルガ公、ドミツィオが死去した。ここで機を逃さず動き出したのが、ドミツィオの叔父ミケラードである。ゴルガではドミツィオが公の座にいながら、その実権はミケラードに奪われていた。

 ミケラードはこれを機に自分が公となることで、表立ってさまざまな政策が行えると考え、親類にドミツィオの遺産を分け与えることを条件に自分が公となることの承諾を得た。

 しかし、そこに横槍が入った。

バーリ国含む、周辺五国から待ったがかかったのだ。

 ドミツィオの遺産を受け取った一部の者からゴルガの政権の実態についての情報提供があった。この情報から、ミケラードの行為は許しがたいものであるとし、公位を一時的にバーリ国王アニエーロに譲渡するように要求してきたのだ。

 自らの失脚を恐れたミケラードはある行動に打って出る。


「ようこそわが公国へ」

 ミケラードが丁重に迎え入れたのはアベラルドである。

 アベラルドはミケラード邸の客室に案内されると、

「なにやら面白い話があると聞いたのだが?」

 と椅子に腰かけながらミケラードに問いかけた。

「ええ、それはもう。まずは、貴国のアニエーロ様の王位継承、おめでとうございます」

「その話はやめてくれ」

 アベラルドは不満な態度をあらわにした。それを見たミケラードは笑みを浮かべ、

「実は私、近々バーリ王国への侵攻を計画しておりまして……」

と続けた。すると、アベラルドは驚き立ち上がった。

「貴様正気か!? バーリはここよりも遥かに大国だぞ、侵攻なぞしたところで貴公らが滅ぶだけだ。だからこそドミツィオ様の父上は・・・・・・」

 ミケラードはアベラルドを遮り、続けた。

「存じております。軍事力の乏しいゴルガへの脅威を退けるために平和協定を結ばれ、以後安寧の時代が訪れたことを。しかしご子息のドミツィオ様なき今、その効力もあやうい。それに私はアニエーロとかいう小僧が嫌いだ」

「嫌いだと……?」

「ええ、それはあなたも同じなのでは? ご自身の王位継承の話が有耶無耶にされて不満でいらっしゃる。だからこそ、ここあなたにお話をしているのです」

「協力しろというのかね?」

 アベラルドがそう言うと、ミケラードはにこやかにうなずいた。

「あなたに属する軍勢を用いればバーリの軍勢は半分ほどになるはず。そこに我らゴルガの軍勢を加えれば・・・・・・」

「勝機はあると」

「今が絶好の機会なのですよ。新体制になって地盤の固まっていないバーリを、アニエーロを退けるには。あなたの軍と私の軍を使いバーリを占領し、あなたが王座につく。可能性は十分にあります」

 ミケラードはずっとアベラルドに迫った。

「兵を貸すということは当然ながら、見返りがほしいのであろう?」

「ええ、あなたが王になられた暁には、バーリとゴルガの同盟、そして私のゴルガ公位を承認していただきたいのです」

 アベラルドは「なるほどな」と考えこんだ。そして、

「それでお互いの望むものは手に入る。いいだろう。やろうじゃないか」

 ミケラードは満面の笑みを浮かべ手を差し出した。

「交渉成立ですね。それでは、なにとぞよろしくお願いします」

 アベラルドはミケラードの手を握った。


 和の崩壊は間近に迫っている。


つづく


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