第5話 秋はもう赤くて

 あいつが帰ってくる。


 私は急にあの頃を思い出す。色づいてはっきりとしてくる。私の青春、恋焦がれた時代。しばらくは連絡したり、何してるんだろうなあと想像したりもした。だけど自分のことで忙しくなるとしだいに考える時間は減っていった。忘れていった。



 職場の先輩は私にいつも言う。



「若いんだからあたしら年寄りを敬いなさい」


「年寄り扱いしないで!」



 ってどっちだよ!それに若いんだから恋愛しなさい。青春時代はあっという間に過ぎてくよ、とも言われる。


 ちょっと待って、青春っていったいいつまで?何才から何歳まで?たしか中学の教科書に載ってたような気がする。保健か道徳、どっちか。



 近頃寒くなってきて、風が冷たい。そして強い。髪がボサボサになる。最近はもう伸ばさなくなったなあ。車を停めて降りたら、ユラユラと揺れる隣ん家のコスモスが見える。



「あら、帰ってきたの?」


「はい」


「こっちのバカ息子もせっかく帰ってきたのに今出てったのよ。散歩だって!もー少しは落ち着いて休んだらいいのに」


「ほんとそうですね、ちょっとあたしも行ってきます」


「行ってらっしゃい」



 歩いて枯葉を踏みしめる。いろんな色が混じっているけれどやっぱり目立つ赤色。見上げても赤く色づいた葉っぱがたくさん。もうすぐ落ちる。落ちる前にこんなに色を変えて。


 いつもの橋にいた。一目惚れ。私はまた恋に落ちる。だからアイツを川に落とすわけにはいかないのだ。


 強い風に吹かれても。

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