第3話 冬はまだ越えぬ

 進路と夢は違う

 夢は見るもの

 進路とは見えるもの

 とある先生の言葉

 夢を見ていても

 進むべき道すじ

 それが見えないならやめておきなさい

 そうはっきりと言った



 あいつには夢があった

 私にはない

 口に残る甘いだけのレモン味のかき氷

 恋とも呼べないような想いのかけらは

 中学の時にはすでに夏の空に溶けた


 それからしばらく私たちはさほど変わらずに過ごした。実際にはお互いに体も心も痛いくらい変わっている。あいつはみるみる私を追い越し大きくて、チャラくて少し乱暴になった。



「冬を越えて春になったら、きっと皆さんは桜咲きますよ!」



 3年生の教室から熱のこもった先生の声がする。来年の私たち。まだ先の話、未来の話。私には時間が永遠にあるような感じがしていた。だってまだこんなに寒い、春なんてまだまだ先。進路希望調査用紙、お前はまだ早いぞ。冬眠しろ。



「お前、まだ出してないの?」


「いやーなんとなく家の仕事、そのままやるもんだと思ってたから」


「頭いーのにもったいねえな」


「珍しく褒めてるの?」


「なんだよ、やっぱ頭よくねーな」



 いつもの家のそばの橋の上でこいつと話している。彼は私にタバコをすすめる。首を振ると少し嬉しそうに笑った。



「変わらないなあ」


「あんたが変わりすぎ」



 私はお兄ちゃんに言うよ、と脅して没収する。こいつのお兄ちゃんは怖い。



「俺、東京に行く」



 急に真面目な顔と声に、あっという間に私の時は止まってしまった。



「あ、うん」



 遠いなあ。



「うん」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る