第2話 秋はまだ去らぬ
夢破れて、俺はここに戻ってきた。
夕暮れ時で風が強い。母さんの好きな庭の植物たちも揺さぶられている。伸び放題のコスモス達はまるでお化けのようだ。雨に打たれても風に吹かれても強い。秋の桜はいろんな種類のピンク色が鮮やかで、俺は目を細めてしまう。
「あんたー、隣ん家に声かけてきたら?」
「いいよ、別に」
「どうせわかるし、帰ってくるって言ったよ?」
「な、なんで言うんだよ」
逃げるように散歩に行く。落ち葉の上をさくさく歩いて、懐かしい道を踏みしめていく。ふと橋の上で立ち止まる。
周りから言われる。まだ若いからなんでもできる、やり直しもきく。これからの人生だ、まだまだだと。俺はまだあるのか、と思ってしまう投げやりな自分に気づく。
「わっ!」
「うわあ!」
何すんだ!?と思ったら隣の幼なじみだった。
「死なないでよ、せっかく帰ってきたのに」
「んなこと考えてねーよ。お前のせいで死ぬとこだった」
「ならよし」
それは死ぬ気じゃなかったことが?
なんとも言えない懐かしさと恥ずかしさとでまともに顔が見れない。
「おかえり」
「た、ただいま」
だが声で少し体が軽くなった気がする。思わず上げた視界にショートカットの髪が秋風に揺れていて…目が合う。久しぶりに見た笑顔は素直に可愛かった。
「明日どっか行こう、どうせ暇でしょ?」
「うん」
足元の川も空に浮かぶ雲も、変わらずにただひたすらに流れている。秋はまだ始まったばかり。これから長い冬が来る。
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