第31話またデジャブを感じる。

「アルフォード、さっきはごめん。言いすぎた」


「……」


「……あんたが最終的に決断した答えに従うよ」


「お前の言うとおりだ」


「……え?」


「もう親父はいない。これからは俺の客をもっと増やすべきなんだよな。目が覚めたよ。お前の言葉で」


「アルフォード」


「俺はまだまだ未熟だ。だから力を貸してほしい」


「私もできるだけ協力するよ」


「レイ、ありがとな」



☆★☆★☆★☆★☆★



「って感じかな本来の乙女ゲームだったら。いや、いくらなんでも数分後で心変わりして仲直りって無理あるか?」


私は広場にいた。今日はいつもより少し肌寒いせいか先日来た時より人が少なく感じる。

私はベンチでケバフを食べていた。肌寒くても屋台は通常通りだ。


「そのケバフ気に入ったの?」


「普通」


人がすぐ近くにはいなかったのでうさぎに普通の話し声で答えた。


「ねぇ、さっきの話だけど心変わりって君のこと?それともアルフォード?」


「この場合は両方だろうな。乙女ゲームではヒロインが無駄に『ごめんなさい』って先に謝ることはあるけど」


「じゃあ君は?」


「それがまっったく悪いと思ってない」


普通なら相手に暴言を吐いたら多少は心が痛むものかもしれないがそれがまったくない。むしろ言い切った妙な達成感がある。


「まぁ、確かに間違ってはいないかもしれないけど」


「おや、意外だ」


お人よしのうさぎのことだから言いすぎだとかいって私を諌めるものだと思っていた。


「間違ってはいないけど端から見たらあれはただの暴言だよ。あんな当たったら痛い直球ボールみたいなストレートじゃなくてもう少しオブラートに包みながらでもよかったんじゃない?」


「まぁ、現実だったらあそこまでストレートには言えないけど」


人間は相手から図星や正論を突かれたら壁をつくり、場合によっては攻撃的にもなる。だから基本は正論より調和を取ろうとする。誰だって波風立てたくないし輪から外れたくない。


でも、ここは現実ではなくフィクションの世界。調和なんていちいち取る必要もない。


「現実だったらすぐに仲直りなんてないだろうな。今まで意地になってた人間が知り合って間もない人間の言葉でその日のうちに考え変わるなんてうまい話早々ない」


「そうなの?」


「まぁ、どっちにしても別にこのままクビでもいいけど」


私の言葉をあのままどう受け止めたかわからないが、もしかしてそうなる可能性もある。


「それなら願ったりかなったりだ」


これ以上メインキャラに深入りすることもなくなる。


「もしかしてそれ狙ってたの?」


「いや。そこまで頭回ってなかった。今気づいた」


「ウィルに手作りケーキを食べさせることについてはもういいの?」


「あ、忘れてた」


そういえば、あの店で働こうと思ったきっかけはアルフォードの弟だった。ほっこりするようなきっかけをうさぎに言われるまで忘れていた。


「いいや。別に」


よくよく考えたらそれほど重要なことでもない気がする。たぶん一時期の感情や空気に流されてなんとなくそれが自分の中で最優先するべきことだと勘違いしたんだろう。

後ろ髪引かれるような感覚もないため私にとってはその程度の気持ちだったんだ。


「さてと」


私はケバフを食べ終えて立ち上がった。


「これからどこか行くの?」


「時計買いに行く。やっぱりないと不便だ」


私は億劫な気持ちを抱きながら時計を売っている店を探すために広場を出ようとした。


「!?」


一瞬だが誰かの視線を感じ、周りを見渡した。


「どうしたの?」


「なんか誰かに見られているようなそうでもないような」


私はその視線を振り払うかのように早足で歩き始めた。


「近くに時計屋ない?」


私は石畳のある街の通りを見回しながら歩いていた。中心街なだけに肌寒くても人通りが多い。本来なら時計なんてものは近場のデパートなどで安く買えるものだ。でもここでは時計という代物がどこで売っているのかまったくわからない。


「そうだねぇ」


うさぎは例の説明書と睨めっこしながら唸っていた。


「こういう場所で安く売っている場所って、どこだ?」


「う~ん」


「適当に安く売っている店ってない?」


「う~ん」


「デパートみたいなところがあれば便利なんだけ、ど!?」


突然誰かに腕を引っ張られた。

なんだ一体!

突然!変質者か!


「え?どうしたの?」


うさぎも驚き、私を振り返った。うさぎは地図を見ながら唸っていたためその人物に気づかなかったらしい。引っ張られたというよりも声をかける代わりに腕を掴まれたといったほうが正しいかもしれない。


私は不快に感じながらその人物を振り返った。


「なんか用?」


私の腕をつかんだのは青年だった。しかも凡庸の顔立ちではなく美男子だ。一本一本銀の糸が繊細に紡いだような白銀の髪を靡かせ肌の色素も薄い。

モブキャラとは思えない美青年顔に思わず、ギョッとする。


「あなたは――」


息を乱し私よりも少し背が高い青年が私に話しかけてきた。

この声どこかで。


突然、突風が吹いた。


砂塵や葉が舞い上がり思わず目を瞑る。


風がゆっくりと通りすぎ、砂が入らないように閉じていた目をゆっくり開けた。青年の前髪が風で払われ、さきほどよりも輪郭がよりはっきりとする。


瞳の色は鮮やかな緋色で儚げな白い睫が乗っていた。

白い髪に赤い目なんてまるでうさぎだ。あれ?なんだかまたデジャブを感じる。


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