#2

 入口をくぐると、清楚な雰囲気の仲居が三人を出迎えた。

「ようこそおいでくださいました。御予約いただいた倉崎くらざき様でございますね?」

「そうですわ」

 三人の中で先頭に位置していた倉崎の返答を聞いて、仲居は微笑む。

「本日は御宿泊に当旅館を選んでいただき、誠にありがとうございます。長旅でお疲れだとは存じますが、お部屋を御案内いたします前に、御記帳の方をお願いいたします」

「ええ、わかりましたわ」

 倉崎は仲居の案内に従って、受付の方へと向かう。残る二人もその後に付いて行き、倉崎が宿帳に記帳している間、周りを見回した。

 外から見た印象に反して、旅館内は現代風な内装であった。しかし、それはざっと見る限りの話で、よくよく観察してみると年を経てくすんだような色合いの部分が所々にあり、ある程度古くなった箇所に絞って新装したのだということが分かる。低予算ゆえの誤魔化し、と言うには見事に違和感なく調和している。発案者のこだわりだろうか。

 やがて倉崎が記帳を終えると、三人は部屋へと案内される。この旅館は入って左側に客室、右側に宴会場や大浴場などが配置されており、三人が案内されたのは二階の角部屋であった。

 部屋は女三人で寝泊りするにはやや広すぎるくらいの広さで、畳敷きの空間を障子戸で区切った向こう側は広縁となっている。さらに、窓の外には青々とした緑が映し出され、旅館の裏手を流れる清涼な川を眺望できた。

「わあ……綺麗な景色ですね!」

「ふふ、お泊りになられたお客様には必ずお褒めいただける、当旅館自慢の景観です。この建物の横手の方から川縁まで下りることはできますが、足元が滑りやすくなっておりますので、お向かいになられる際にはお気をつけてくださいね?」

 その後、仲居は諸々の説明を三人にして、部屋を出ていった。

 ようやく訪れた安らぎの時間に、三人は同時に体から力を抜く。

 お茶淹れますね、と備え付けの電気ポットに向かった小春に一言、謝辞を述べた倉崎は机を挟んだ対面の女性に得意気な顔をしてみせた。

「どうです、立夢りずむ。わたくしのチョイスした旅館は?」

「……なんでそこでわたしに聞いた?」

「どうせあなたのことだから、わたくしがろくでもない場所を選んでるとでも思っているのではないかと」

 倉崎の言葉に、立夢は肩をすくめてみせる。

「ひどい評価だね。まあ、期待を裏切られたとだけ言っておこうか」

「やっぱり思っているじゃないの」

「まあまあ……でも、本当によくこんな良い旅館見つけましたね? こう言うと失礼ですけど、旅館の質の高さの割には有名でないのか、他の宿泊客が少ないというか……」

 人数分のお茶を配る小春が、不思議そうに首を傾げた。

「ああ、お客が控えめなのは恐らく著名な方々がお忍びでここを訪れることが多いからだと思いますわ。わたくしも、父の知り合いの方からこの旅館のことを教えていただきましたし」

「倉崎さんのお父様って確か大企業の社長さんでしたよね。すごいなあ」

「ピンキリで言えばかなり端っこの方ですけれどね」

 小春の認識に淡白に付け足し、お茶を啜る倉崎。

「その知り合いの人って何してる人なの?」

「政界の方ですわ。それ以上詳しくは話せませんけれど」

「あー、興味本位で聞いただけだから気にしないで」

「そうですか。それでは話は変わりますけど、これからどうしましょうか?」

 そう言って倉崎は自身の手首へ視線を移す。

「夕食の時間まで、まだそれなりの余裕はあるみたいですけれど」

「私はお二人に合わせます」

 小春がそう言うと、立夢の元に視線が集まる。

 これはわたしが主導する流れかーそういうのはあまりやりたくないんだけどなー、と立夢は思いつつ。

「んー、それじゃあ――」

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