第2話

中学三年生で私は、また姉と同じ学校を受験した。姉は中高一貫校なので高校受験はしていないが、同じ学校に入りさえすれば自信を取り戻せると信じていた。そして私は死ぬほど努力をした。内申のために家族で1番早起きをし学校に行った。真面目に真面目に授業を受けた。受験勉強は1月からは1日8時間を超えていた。そしてやっと姉のいる高校に入ることが出来た。3年越しに私は自信を取り戻した。とても嬉しかった。

姉と同じ学校に入学してから数日、私は管弦楽部に入ることを決めた。姉ももちろん管弦楽部所属しているため迷ったが、トランペットを吹きたかった。姉に見て欲しかった。私はもう姉を羨んでいるだけの存在ではないと。

しかし管弦楽部は完全に姉の独壇場だった。

部長である大田太郎という先輩がどう見ても姉に惚れていた。

「今日の練習はパート練のみだ!」

と部長

「え、今日は合わせないってことですか…」

姉が言うと

「尾形が合わせたいなら合わせようか。うん。まあこの部の全国出場も、まあ尾形のバイオリンおかげと言ったらおかげだしな!」

しどろもどろになって姉の機嫌をとろうとする。その他何度も練習中姉を褒めちぎる。

「尾形はもううちの学校のパンフレットに載せてもらいたいよな

絶対管弦楽部の人気出るよ、美人バイオリニストがいるって噂になる。」

と部長、姉が

「あーそんなことないです。ありがとうございます。」

と塩対応でもおかまいなしだ。

同級生の坊ちゃんお嬢ちゃんにも

「お前尾形先輩の妹?全然顔とか雰囲気とか違うけど」

「お姉さんは美人って感じで菖ちゃんはなんか癒される顔だよね」

「お姉さんのバイオリン聞いたけどほんとに素敵ね」

「お姉さん学年トップなんでしょ、テスト問題とか回してもらえない?お願い!」

とお姉ちゃんの話ばかり。

いい加減にして欲しい。私だって可愛くなったし必死に勉強も楽器も練習しているのに。


ある日、トランペットの先輩に訊ねてみた。

「やっぱり私姉と比べられちゃいますよね。同じ学校で部活も一緒で。」

「そりゃあね、要ちゃんはほんとにこの学年1番の人気者だし」

と先輩。

「本人はニコニコしてるだけだけど、やっぱりバイオリン弾いてる時の顔は恐ろしい程かっこいいしねー」


みんなにちやほやされている姉の姿を毎日見て、私は段々辛くなってきた。好きだったオーケストラの大会も、重要な役割は全て姉のバイオリンが頼られていた。この学校は管弦楽部が全国レベルで強い。私の頑張ってきたトランペットなどまるで無価値だった。


もう心が腐りかけ、私が地元のやんちゃなグループと夜な夜なあそぶようになってきていたある日、夕食中に姉が突然

「私学校やめようかな。」

と言い出した

「え、要ちゃん?どうしたの、何かあった?」

「辞めるなんて、何か理由があるのか、留学なら高校卒業後でも…」

母と父が慌てて言うと

「私美容師になりたい。」

姉の唐突な宣言に家族中が言葉を失った。

「冗談よね?今まで頑張ってきたバイオリンは?」

母が訪ねると

「うんもう飽きたかなーなんか楽器って何十年もやるものでもないと思う。」

「美容師になるー」

姉の頭がおかしくなったのかと思った。使いすぎた頭がパンクしてしまったのかと。

「お願いだから大学までは行って、卒業してちょうだい。お母さんからの本当のお願い。」

と母に言われてから4年後、姉は一流の国立大学を卒業し、何故かバイオリニストでも美容師でもなく普通のOLになった。

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