風洞これから

 航空機を設計する場合、いきなり作って飛びませんでした~では洒落になりません。設計段階から本当に飛ぶのか、どのような形にすれば目的にあった飛行ができるのか、どのような飛行特性があるのか、そうしたことを確認するために、風洞での試験が行われます。

 風洞は、風速だけでなく気圧や温度など、できるだけ実際の飛行状態を再現するように工夫されています。やっかいなのが、レイノルズ数です。レイノルズ数は、簡単に言ってしまえば、空気の粘度、粘り気です。水や空気のような物質(流体)には、粘性があります。常に一気圧の状態で生活している私たちには、あまり実感できないかも知れません。この粘度を表す無次元数がレイノルズ数で、流体の特性や速度など、さまざまな条件で変化するため、風洞で正しいレイノルズ数を再現するのは大変なのです。NASAには、航空機が飛行するような高レイノルズ数環境を再現できる風洞があります。


 そこで、近年ではコンピューターによるCFD(数値流体力学)を使った設計が、広く使われています。CFD自体は、1960年代から使われていますが、コンピューターの進歩に伴ってより速く複雑な計算ができるようになりました。スーパーコンピューター『京』の後継である『富岳』も、CFDをサポートする設計になっています(逆に言うと、京は航空分野でほとんど使われてはいませんでした)。

 ただ、CFDも完全ではなく、失速状態などの非定常状態の計算は苦手です。また、実機での飛行でも、失速状態は危険を伴うので避けたいところ。結局、風洞、CFD、実機の三方式で補いなっていく必要があるでしょう。ちなみにJAXAには、風洞とCFDを組み合わせたダーウィンというシステムがありますが、活用されているかというとモニョモニョ……。


 計測方法についても解説しておきましょう。

 支持架が模型が受ける力を伝えると書きましたが、機体表面の圧力を計測する場合には、模型内に埋め込んだ圧力センサーの数値を計測する方法があります。ただ、これだと点でしか計測できません。そこで考えられたのが、感圧塗料(PSP)を使った計測方法です。感圧塗料は圧力(実際には酸素量)に応じて発光する塗料で、これを模型に塗って撮影すると、塗布した面の圧力分布を見ることができるのです。

 風による力、圧力のほかに知りたいのが、風の流れです。一定間隔で煙を流して風の動きを見せる画像を見たことがあるかも知れません。煙風洞などと呼ばれます。その他に、蛍光塗料を混ぜた油を流すことで、模型に風の流れに沿った模様を浮かべるという観測方法もあります。どちらも、比較的大型の模型に使われます。今は、それをさらに進化させて、風洞内に油の細かい粒子を流し、それにレーザー光を当てることで流れを可視化する方法があります。「粒子画像流速測定法(PIV:Particle Image Velocimetry)」と呼ばれるものです。具体的には、ある面をレーザーで走査して作られるレーザーシートに、粒子が通過する際レーザーが反射するというものです。

 計測方法も、できるだけ模型に負担を掛けない、非接触な計測方法が使われているのです。


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