ー後日談ー

 天使と騎士の姉妹

 地球と魔界衝突回避がなってから、その後に訪れた危機——アタシ達へ狙い定めた想定外の事態を辛くも乗り越え……そしてさらなる想定外に包まれた。

 要人護衛に失態を晒し、あまつさえその要人すら危険にさらした筈のアタシは——ヴァチカン本部の正式な命の元、騎士における最高の称号を賜った。


 祖国より受けた類なる評価に、対魔行動に移れる隊を纏める者の人員不足も少なからず絡んでいるだろう。

 だからと言って、それ程の人員がおいそれと集まる訳も無い。


 そう感じたアタシは、失礼を承知でそうではないのかとエルハンド様に質問してみたら——「それはさすがに礼を失しているぞ?」とたしなめめられた。

 そこで初めて——アタシがヴァチカンに、必要不可欠な存在と認められた事に気付いたんだ。


「それで……アーエルちゃんは凄い騎士様になっちゃったんだ!」


「はぁ〜何やアーエルちゃんも、まるでテセラはんに倣ったみたいやな〜。」


「きっとテセラちゃんが王女様だから、アーエルちゃんはさしずめ……それを守るナイト様って所?」


「……なっ!?って、あんた……それは……それで、アリ……かも——」


 当然そんな話を聞きつけたアタシの素敵な友人達——今や恒例の祝賀女子会……てか、祝賀会と女子会を混ぜるってどうよと思わなくもない。

 それも場所が、アタシの住まうヴァチカン管轄マンション部屋って時点で……いろいろ何か間違ってる気がするのは気のせいか?

 などと思考に描きつつ、いつもの様に甘いスイーツとドリンクに舌鼓を打つアタシ。


「それはそうと……そろそろ来る頃かな?ねぇ若菜わかなちゃん。」


「そうやなぁ〜……もう近くへ来とるはずおすけど——」


 目の前にあるチップスを頬張りながら、よからぬ企みを他人アタシに内緒で謀る小さな当主桜花はんなりな友人若菜へ……抗議も辞さぬ感じで言葉を放つアタシは——


「……あんたら、アタシに内緒で何か企んでるだろ……。あんまり人の心臓に良くないサプライズは——」


「――ごめん下さい。アムリエル様は御在宅ですか?」


「ブファッッ!?」


 玄関から響いた声——それもつい最近知り合ったばかりの、少し年上である声で瞬時に事を理解し、またしてもをブチまける事となる。

 しかしそこは流石の当主様——またアタシの眼前に座していたにも関わらず、咄嗟に手元のお盆でそれを回避……まあ、吹き出した菓子は散りじりなんだけど……(涙)


「アーエルちゃん、またぁ〜?キタナイな〜(汗)」


「いや!?ちょっと……今の声、侍女さんじゃ——ああもう、ちょっと待ってるし!」


 お約束の事態にまたもクスクスと他人事で、笑い転げるはんなりな友人と当主様を捨て置いて……想定外もはなはだしい客人を出迎え——

 アタシは本日最高のサプライズを叩きつけられる事となる。


「あの、悪い!あんたが来るなんて聞いてなかったもんで!つか、どうせアセリアも——」


 慌ただしく玄関ドアを開け放ったアタシは、侍女の隣に居並ぶ予想済みの少女を発見し——そので思考停止と共に絶句した。

 アタシを見る彼女——ご令嬢のそれは、……挙動不審な上、

 そして——を受け……思考が遥か地球の彼方までぶっ飛んだ。


「あ……あの、……息災でしょうか。」


「え?……………………ファァァァァァァッッッ!!??」


 うん——地球の彼方までぶっ飛んだあと、一周して戻って来た。

 これには流石の、後ろでニヤニヤ成り行きを見守っていた二人の主犯格——そちらの思考までも弾き飛ばし……遅れて戻った思考に、それはもう先を上回るニヤニヤが宿された。


「——ちょっと、若菜わかなちゃん……これはこれは想定外。遂にアーエルちゃんにも……(照)」


「いやそれはアカンえ?……そもそもアーエルちゃんには、テセラはん言うお人が(照)——」


「うおおおぃぃ!?……って、そこ!ななななっ——何言っちゃってるんだしっっ!?」


 もう何だか事態が飲み込めない——いや、二人はサプライズで侍女とご令嬢を招待したんだろうけど……この状況は想定の遥か斜め上を超音速でぶっちぎった感じだった。


 そんなアタシ達を見やる令嬢侍女——確か名前は魔剣の名を冠した、アロンダイト家の生まれだったか。

 彼女が言い様のない雰囲気を纏い——アタシ達へとこうべを垂れた。


「本日は私も皆様へお礼を述べたく——おそれながらお呼びに預かりました。此度は我が主の意思と想い……それらを背負って頂いた事——」


 令嬢侍女が並々ならぬ想いを口にし——それを耳にしたアタシ達は、少しだけ……何時もの

 何時ものままじゃ、かしこまる令嬢侍女に失礼と感じたからだ。


「そして……我が主へ、この様に普通の友人然と接して下さり……最早感謝の言葉もありません。本当にありがとうございます。」


 深々と下げたこうべ——全ての誇りは主と共にと言わんばかりの、令嬢侍女の切なる想い……アタシ達は確かに受け取った。

 だから……企画したのは友人で、とんだサプライズだったけど——その言葉はアタシが放つ必要があると思ったんだ。


 だから——


「——ああ、あんたも頭を上げてくれ……。今日はせっかく二人を誘ったんだ。……一緒にアタシの、聖霊騎士パラディンの称号授与を祝ってってくれ!」


 アタシの声が届いたご令嬢が、はにかむ様に笑ってくれた。

 その時アタシは……少しだけ——あの慈愛を振りまく金色の王女テセラに近付く事が出来たんだ。


 それからは素敵な来客を含めたメンバーで、いつもの様に楽しい時を過ごす事が出来た。

 きっとそのアタシだから気付けたのかも知れない——みんなで騒ぐ中、金色の王女が魔界へ帰郷してから変化のあった小さな当主の曇った笑顔。

 それが晴れやかに——そして一段と輝いた物へ変わっていた事に——


 ……後に聞いた、あの子の壮絶なる葛藤が——ようやく理解出来たんだ。



****



 断罪天使の覚醒により、英国ご令嬢を襲った危機の後——日の本を再び覆い始めた不穏を辛くも拭うに至る。

 だがそれは序章に過ぎず――運命さだめの因果は翻弄される少女達へ次々と襲いかかる。


 覆う不穏を払う者達にとっては予断を許さぬ状況——日本におけるその最前線である三神守護宗家は、重要な岐路に差し掛かっていた。

 それは断罪天使の少女が、要人護衛と言う新たな任を受けるわずか前までさかのぼる。


 守護宗家史上最大にして最強の剣——天津神の御神体ヒノカグツチを宿す小さな当主の心が、ささやかな……そしてと向き合っていた。

 彼女が振るう対魔刀剣アメノムラクモ——そのあり方について、大きな決断を迫られる。


 少女は、先の大戦の最後—— 一騎打ちを願う兵器であるを……、その刃にかけたのだ。



****アナザーストーリー ヴァンゼッヒ編 二幕 ―完―****



アナザーストーリー

討滅の桜花編 第二幕 へ続く——

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魔法少女戦録メサイア 断罪のヴァンゼッヒⅡ 鋼鉄の羽蛍 @3869927

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