4話—6 聖なる断罪天使
マンションでの入り
任務上に学園生活が含まれるため、必然的に学園への登校が出来なくなったのもある。
空気を読んで、
「なあ、ディクサー……今日も見張りか?なら部屋に入れば良いのに……。」
てか——軽装とは言えその騎士甲冑で壁に張り付いてたら、あんたの方が不審者だし(汗)
「気を使う必要は無いさ、お嬢。これはオレが受けた任務だ……しっかり見張らせて貰うぞ?」
「あ……そう言う事じゃ無くてさ……。はぁ……もう良いや。」
玄関の扉越しで掛かる声——この騎士は頑固さと融通の利かなさが災し、同僚の赤毛のダンナに脳筋と皮肉られるのをよく耳にしてた。
その性分はこう言う時に牙を剥く——正直勘弁して欲しいし。
でもそれが、この隆々とした巨躯の騎士らしい優しさだって事も知っていた。
直後——今まで優しさに溢れた雰囲気を振りまいていた見張り番の騎士から、凄まじいまでの気配が
「ちょっ!?……ディクサー!どうしたん——」
「お嬢……これからオレは任務上、止む無くこの場を空ける。」
突如として発された気配に疑問をぶつけようとして——その問いに被せる様に、巨躯の騎士が言葉を発する。
突然の事に困惑しか浮かばなかったが——後に続いたキーワードは、アタシの思考へその発言に含まれる意図を否応無しに悟らせた。
「今頃アセリア嬢が、宗家管轄の邸宅へ送迎されているはずだ。勿論対魔防御に於いては抜かりない施設だが……な。」
アセリアの名が含まれた時点で、この男が今言わんとする事が脳裏へ浮かぶ。
——そうか……つまりはそう言う事か。
「いいなお嬢……くれぐれも謹慎中の勝手な行動は慎めよ!」
そう言って駆ける頼れる巨軀の騎士——猛然と向かった先の専用車両で、タイヤのブラックマークを残しつつ……任務が待つ現場へ飛んだ。
「全く……回りくどいったらないし。——でも……ありがと、ディクサー。」
ここまでお膳立てされてグズってる様じゃ、アタシを拾ってくれたエルハンド様やヴァチカンに申し訳が立たない。
マンションドアを開け放ったアタシは少しの逡巡——そしてそこに居る視界に映らないもう一人へ声をかける。
「前の様に、狂気に駆られたままで同じ
『ええ、ソウデスね〜。ソレはイタすぎマスね〜。』
アタシの耳へ響く緊張感の無い声が何だか心地良い。
共にあろうと誓った者の意志を確認した——今度こそ迷いなど不要だ。
すでに馴染んだ狂気の祈りへ、守護の祈りを重ねがけ……主へ御力添えを請う。
「主よ……我これより、誇りを背負いし生命の守護に赴くため——今一度あなたの御力を欲す。その光満つる祈りを我に与え給え。」
「——エイメンっっ!」
もう力が途絶える不安も無かったアタシ——マンション廊下のベランダ……高さにして20階建て中腹。
何の躊躇も無く飛び降りた。
——刹那、姿を現す友となった
包む銀嶺の軽甲冑は所々に天使をあしらい——狂気を前面に押し出していた以前より一層天使らしく神々しい。
銀嶺の翼を広げたアタシは落下する視界に、天地逆さまの世界を捉え——目指すべき場所を視認した。
「行くぞ!ガブリエルっ!」
友に掛けた裂帛の気合いと共に……アタシは守るべき、気高く素敵な友人の元へ向け——聖なる雷光と化した。
****
少女はただその誇りを翳して、守るべき民の盾となる。
そこに人種や、言語——祈るべき神の違いなど瑣末な事と言わんばかりに。
だが——彼女には決定的に不足する物が存在する。
それ無くしては守るべき者も守れない——少女はそんな事は百も承知。
それでも——彼女は震える両脚へ誇りと言うムチを入れ、前へと一歩を踏み出した。
すでに彼女は見えている——感じているのだ。
その光満つる断罪の使者が、この悪鬼が蔓延る大地に降り立つ瞬間を。
だからこそ、己が双眸に映る現実と向き合った——それを受け入れ……超えていく為に。
雄叫びが無数の絶望を引き連れて、聖なる騎士達の行く手を阻み——少女と騎士の間へ危機的な空隙が生じ——
「アセリア嬢っ!戻れっっ!」
騎士の叫びが届くも、少女は一歩たりとも動かない。
迫る異形が群れを成し——少女を
騎士の誇りを乗せて、力の限り少女は声を上げた。
聖なる力を——愛しき友人の到来を待ち望んだかの様に——
「アーエルさーーーーーーーーーーんっっ!!」
「うわーーーーーーーーーーーーーーっっ!!」
それは轟音——
それは雷鳴——
天より降り注ぐ
騎士の誇りを背負いし少女の叫びは……今此処に、最強の断罪天使を呼び寄せた。
銀色の砂塵と化す悪鬼をかき散らす銀嶺の翼。
銀の軽甲冑へまさに天使その物である、神々しき装飾を
断罪の魔法少女ヴァンゼッヒ・シュビラ……アムリエルが天空より舞い降りた。
「——つか、あんた。なんつー無茶してんだよ……ったく。アタシが間に合わなかったらどうする——」
「間に合うと信じてましたよ?」
笑顔の嘆息に返すは、同じく笑顔。
そこには最早、仲違いしていた姿は欠片も見当たらない。
当然である——少女達は互いを嫌ってなどいなかったのだから。
ただ——まだほんの子供であっただけなのだから——
少女達の無事を確認し、安堵するも眼前の悪鬼を白刃にて屠る赤毛の騎士——視線には未だ宿る警戒の光が周囲を睨め付ける。
そこへ事を静観していた騎士隊長も合流し、訪れたる最悪の事態——その序章到来へ最高の警戒を敷く。
「サーヴェン……来るぞ!」
「——……っ!?アレは!?」
騎士隊長らだけではない——英国ご令嬢護衛の任に付く全ての騎士が目撃する。
復興が
只ならぬ気配……しかも無数の気配が大気を浸蝕する。
「ハッ……!こいつはちょっと……シャレじゃ済まないし!」
それを確認した断罪天使も、事が異常を極めているのを理解した。
現れたる異形は明らかに今までの常軌を飛び越える。
それらが取る形態はほぼ人型。
野良魔族と言う霊災は、本来霊的に高位である人型を取る事はあり得ない。
世界での数々の神話に於いても、人類は神によって作られたとされ——眼前の事態は、あってはならない生命への冒涜とされる。
しかしその事象に対し研究を重ねた守護宗家—— 一つの結果に辿り着いていた。
それ即ち……野良魔族と言う霊災を媒体にし——命の闇が顕現した姿。
【
「ヴァンゼッヒ!こやつらは今までの害獣共と比べるまでも無く、巨大な悪意に満ちている!ならば――我等のやるべき事は分かっているな!?」
断罪天使と英国令嬢の事を、静観していた聖騎士の声が飛ぶ。
そこにはすべて計算されていた事態と――訪れたる想定を超えた、両面での訪れへ向けた両面への面持ちが宿る。
――常軌を逸した悪意の訪れと……その全てを屠らんとする奇跡の訪れ両面への相反する物へ――
「分かってるし!アセリア……アタシの後に居ろ!そんでアタシへ全部託せ……あんたの騎士の誇りと――その背に背負った使命の全て――」
「この蒼き地球の……これからの未来を担う覚悟をっ!」
訪れたる災厄の序章――常軌を超えた異形の襲来を、絶望など微塵も感じられぬ蒼き双眸で刺し貫く眼光を叩きつける断罪天使。
しかしその声色は友人を慮る配慮に満ち溢れ――同時に言葉を投げられた少女は羨望の眼差しで、その銀翼の天使を見つめていた。
天使の表情を見ずとも、英国令嬢には全ての想いが伝わっている。
だからこそ――想い全てをぶつける様に、愛しき断罪天使へ決意の宣言を翳した。
「アーエルさん!私は……あなたの後にずっと居ます――居続けます!あなたが私の覚悟の全てを背負ってくれるのならば、私はあなたが心置きなく戦える様……我が全てを
「どうかこの蒼き大地へ安寧を――私達が、本当に笑いあって過ごせる平和を招来して下さい!――愚かなる魔の浸蝕を、どうか打ち払って下さいっ!!」
二人の覚悟が日の本の大気を震撼させた――それは後世まで受け継がれる事となる悠久の同盟宣言。
【
「ああ……任せるし!――じゃ、そろそろ出番だよ……見せてやろう――主の祈りが狂気の祈りばかりじゃない事をなっ!」
『了解しまシタ!マイマスター……いつデモ準備はオケで~す!」』
その奇跡の到来は、恐るべき霊災である野良魔族へ戦慄と警戒を呼び――魔と切り結んでいた主の力の代行者達には、驚愕と羨望を呼ぶ。
断罪天使の――少女の纏う力が常軌を逸しているから。
少女がまるで――主に匹敵する神霊力をその身に宿しているから。
「来いっ!アタシの友達……アタシを守りし守護天使――ガブリエルっっ!」
纏う閃光はその裁きの浄化を宇宙の彼方まで届けんが如し――
放たれた聖なる光は、そこを照らすだけで異形の体表を焼き始める。
降り立つ眩き閃光は正しく――聖なる御力――
輝ける
同時に断罪天使の翳す二丁の銀霊銃が大柄な銃身へ変化――否、本来それが彼女の待つ霊導機の真なる姿。
可変機構内蔵連装式自動小銃の姿が、霊銃【
「さあ……これから始まるのはお前達――愚かなる深淵の浄化タイムだ!断じてあんたらの人類に対する殺戮タイムなんかじゃない!」
「後悔なんてさせないさ……そんな事を思考するヒマすら与えてやらない!行くぞ……闇の深淵、野良魔族!一匹残らず――霞の如く散り消えろっ……エイィィメンッッ!!」
そして――
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