ー聖なる天使ー
4話—1 謹慎処分
薄っすらと目覚める意識が白く淡い世界を漂っている。
見た事も無い——感じた事も無い感覚の中、覚醒したアタシ。
いや——明確には違う、感覚で理解出来る。
知り得る知識で言えば、そこは表層の意識世界。
「——はぁ~。何か予想は出来たけど……つか、これはあんたの仕業だな?」
身体の感覚は感じないけど、どうやらアタシは生きているはず——そこが召された天国で無い事は明らかだった。
なので——まだ生きてる自分の運命に感謝しつつも、視界に浮かぶ人影へ質問を投げかける。
『ゴメンなさいデス。タイミング的に今しか無いと思いましテ——。この機を逃せば貴女が……マスターが狂気から逃れられなくナルト——』
「ぷっ……!」
『へぁっ!?ナゼ笑うのデスか!?』
いやぁ……流石にアタシも笑わせて貰いたい。
間違いなく眼前の姿はアタシを守ってくれてた存在——なんだけど……何で主の御遣い様が片言の日本語的な喋りなのかと噴き出した。
「いやあんた……日本初体験異国人の、言葉を覚えたてみたいな——ククッ……。いやまぁアタシの場合は
『オオっ!?これはですね……私は貴女に最初、守護者として宿る命を主より受けたデスが……。——ってそもそも、貴女が狂気に走ってシマイましたから不完全なままで——』
主の御遣い様はこの表層世界では姿が曖昧で、薄っすらとした影の様に
ほっとくと長くなりそうなので、一先ず中断を申し出てみる。
「ああいいから、その辺にしとけ。——それよりあんたはアタシに伝えたい事……あるんじゃ無いの?」
ハッ!と我に返った——を、影絵のリアクションで表現する様な主の御遣い様に、またも噴き出しそうになるも……こちらが話を即したからと、耳を傾ける。
アタシの思考が、むしろその言葉を待ち望んでいるんだ。
『――そうデスネ。今は何をおいても貴女に――我がマスターとなるお方にお伝えしたい事、アリマスネ。』
『それは……主よりのチカラを代行するではナイ――内面の、マスター自身のおチカラが強力になり始めてイマス。それが――元々主より賜った狂気の祈りを、打ち消す働きをしてるらしいデスね。』
急に途切れた主より賜りし祈りの力――理由が分かり合点がいった。
アタシが振るう狂気が破壊衝動を源泉としている事は、自分でもよく分かっている。
それも純粋に魔の物を憎悪すると言う、私利私欲が介さなかった頃に得た力――自分の悲劇の境遇がそれを求めたからこそ、主の裁く力の面を欲し……祈った。
それが打ち消されると言うなら答えは一つ――破壊衝動に相反する属性を持つ、主の力の本来の面……慈愛を源泉とする守護の力だ。
正直それが、自分の中で強力になっていると言われて驚きだけど――妙に納得していた自分が居た。
結果として――アタシは狂気を振り撒きながら、ご令嬢の身を何より案じ……守ろうとしたからこその力の途絶と悟る。
「じゃあ何?この先アタシの狂気の力――主より賜った魔を滅する力は減退する一方って事?」
一抹の不安――
守護の力は確かに何かを護るために必要だと思う――思うけど、この先間違いなく破壊衝動を源泉とする狂気の力が魔を撃滅するために必要不可欠って事も理解していた。
アタシが抱く不安を察した主の御遣い様が首を――いや、首となる影を横に振り続ける。
『イエ……むしろ逆デス。今マスターの慈愛を源泉とするチカラ――ソレを狂気と同様に高めなければ、
『――ソノためにも、今の様に主のチカラを代行するでけではダメなのデス。そしてチカラを放出する
――そう、か。
ここは一つの終着点――同時に次の
これ以後野良魔族の脅威が増加する事はあっても、減少する事はまずないと考えれば――アタシが取るべき道は一つしかない。
「わーかったよ……アンタが何を言いたいのか。――うん……アタシ自身もこのままじゃいけない事は分かってるし。そして取るべき道が何なのかも――」
そこまで言葉にした所で――淡い世界が急激に色付き始める。
すると主の御遣い様の影も揺らぎ始め――
『デハ、私はこれよりあなたの傍へ寄り添わせてモライマース。――貴女はこれより……――』
急激に意識が遠のき、御遣い様の言葉も最後まで聞き取れずじまいで視界が
でも彼女が何を言いかけたのか――もうアタシは思考するまでもなく、理解していた。
だから遠のく意識の中で、きっと届くと信じて新しき友へ言葉を贈ったんだ。
「ああ――これからもよろしく……四大
****
遠く夕闇が訪れる頃――
赤く焼けた遅い夏の日が、とある病室の一角へ零れ落ち――それに反応した少女が重い目蓋を開ける。
まだぼやけた視界がゆっくりと映る景色を一望し、自身が何処にいるかを理解した。
「――ああ、ここは宗家の医療施設か。はぁ~……何てこった……まさかの事態だし。」
戻る意識がまず口にしたのは嘆息――その理由は断罪天使が一番理解していた。
何よりそこは先の地球と魔界防衛作戦の折――
そして王女を運んだのは他でもない断罪天使――即ち、王女と同じ状況に己が置かれている事への嘆息であった。
「ほんまや~。まさかアーエルちゃんが病室に寝込む事になるとは、流石のウチも思わへんかったわ~。」
「本当だね~。思ったより元気だから心配して損しちゃったよ~。」
断罪天使が目覚めて見回した視界の片隅に、すでに映っていた二つの小さな影が失礼極まりない文句をぶつけて来た事に――ムッとなり、傷が癒えて目覚めたばかりな少女も言い返すが——
「――二人とも、心配で来てくれて感謝はするよ……。でも人が目覚めた直後にそのセリフは流石に失礼だし?」
と、視界の隅の小さな影へ目をやり——取り敢えず出た文句以降は言葉を止めた。
目に映ったのは二人の小さなお友達の目——揃って赤く腫れ上がっていたから。
断罪天使もそれを見るや、自分が金色の王女の時の様に心から心配されているのだとの確信に至り——それ以上の文句は不要と悟っていた。
しかしふと見回した際に映った影がそれだけでない事に、今更ながらに気付いた少女は慌ててその影——二人のお友達とは比べるまでも無く大きく……大人な影へと声を上げた。
「ディクサー!?……その、アタシ——みんなに迷惑を……。それより何で執行部隊があんな所に——」
すると少女の言葉を制する様に、大きく
「間に合って良かった……。お嬢、身体に痛みなどは無いか?サーヴェンの癒しが効いていたから傷はほぼ完治している筈だが……。」
添えられた手が優しく撫でると、
「あー、えと……大丈夫。痛みとかは消えて——」
そこまで放った少女の視界——ちょうど病室入り口に立つもう一人の騎士がさらなる来客を迎えているのが映り——
途端に断罪天使の顔がバツの悪い物へと移り変わった。
「隊長、お嬢がお目覚めの様です。」
「ああ、その様だな。……該当区画の警備は任せたぞ、サーヴェン。」
「はっ!主の名の下に——エイメン!」
短いやり取り——赤毛の騎士が主への祈りを捧げると、
そして騎士隊長——ヴァチカンが誇る最強の聖騎士が、二つの小さな影へ優しい瞳を送り——
「すまないが——お二人は少し、席を外して頂けるか?」
努めて優しく——それでいて、最愛の家族を案じてくれたその友人達への謝礼を含めるも……これより先は部隊としてのケジメの時間と、少しだけ厳しさを
二人もかの地球防衛大戦を経験した身。
優しき最強の男が何を言わんとしているか——そしてこの後断罪天使にとって、これ以後に関わる重要な決断を下される事を察した幼き友人達は——
「じゃ……アーエルちゃん、少し身体を休めてね。絶対無理しちゃメッチだよ?」
「せやで?アーエルちゃんかて、ウチらの大切なお友達や……それを忘れたらウチらもカンカンやからな?」
愛しき友人への励ましもそこそこに、隆々とした体躯の騎士に連れられて部屋を後にする。
部屋に残るはベッドで上体を起こした断罪天使と、彼女が属する執行部隊隊長。
人払いを確認した騎士隊長が、重い口を開き切り出した。
「ヴァンゼッヒ……今ご令嬢は別室で保護しているが、軽傷で命に別状は無い——」
断罪天使に安堵と不安が入り混じる。
彼女は部隊より出向した護衛任務の真っ只中——その少女へ無事如何に関わらず、護衛対象であるご令嬢の容体が告げられたのだ。
幼き天使の少女もこれから自分が科せられるモノが——処罰の内容が手に取る様に理解出来た。
一呼吸置き——優しさの中、致し方なき思いと隊を預かる責任との葛藤を宿した双眸の騎士隊長より……非情なる宣告が断罪天使に告げられた。
「ヴァンゼッヒ……此度の失態で、騎士会へ多大なる不信と損害を与えた事は理解出来るな?」
「——よって君には、これより一ヶ月……謹慎処分を申し渡す。」
告げられた宣告を前に、予想するも突きつけられた処分に打ちひしがれ——明るかった瞳を掛けられたシーツへと落とす天使の少女。
すでに夕闇が宵闇へ移り変わる中——天使の少女もまた……心が宵闇へと落ちて行くのだった。
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