1話ー3 円卓の騎士会ご令嬢
「はい皆さん……今日から少しの間でありますが、一緒に勉強する留学生を紹介します。では入って下さい――」
今日もささやかで物足りない
すでに登校しクラスの朝礼時間まで、廊下と校庭を遮る窓際で、グラウンドを眺めて
テセラと関わり始めてから、仲良くなった同じクラスの同級生。
クラス内でも、極力他人と無用の接触を避けていたから――もうほんとに最近の事だ。
「も~、そない言わんと。アーエルちゃんいつも委員長の仕事忙しそうやから、こうやってハグできひんし……。堪忍や~☆」
テセラが魔界へ帰郷してからと言う物、いつもこの調子でベタベタしてくる黒髪はんなり少女。
三神守護宗家が第一分家――
特徴的なその
黒髪ではある――しかしその瞳は血の様な深紅。
聞けば彼女、この地球の最終大戦の最中……歴史上最悪の状況を覆すため――自ら必要悪となり、世界を強引に束ねた強大な存在。
その後世界への反逆者として追放された、悲劇の英雄と呼ばれる者の娘との事である。
父の名はルーベンス・アーレッド――母の名はユニヒ・エラ。
そしてその血を受け継ぐ彼女の真の名は、アイシャ・
しかしそれを知ってなお、宗家の大人達は彼女への愛情を惜しまない。
それは
「はぁ~、あんたも大概テセラの時は抑えてたのな……。あいつがいなくなった途端にこれって――つか、アタシが迷惑だし!そしてウザイし!」
だからアタシも、エルハンド様から受けた任務に集中出来たってのもある。
けど――新たな任務……それもかなり
「うん……、せやね。もっとテセラはんと、仲ようしたかったな……。」
あれ?
アタシこれ……まずいスイッチ押した?
何か見た事もないぐらいに落ち込んだし――いや違う、この感じに覚えがある。
あの地球滅亡を回避する戦いの折――あの魔導超戦艦【大和】の医務室で見た時の感じだ。
テセラを覚醒させるため、宗家が超戦艦へ
思い出したくはないけど、アタシもテセラが
でも黒髪はんなり少女にとっては、きっとそれ以上の絶望が襲い掛かっていたかも知れない。
アタシは両親の記憶も、優しさも覚えていない――けどこの子には、僅かにその記憶が残っていると言う。
そしてその両親は、地球と言う世界から追放されたのだ。
家族を失うと言う恐怖と絶望が、アタシとは違うベクトルで精神の奥に刻まれている。
最初からないよりも――持っている物を失う方が、悲しさも恐怖も桁違いのはず。
その考えに至った時――アタシは正直得意ではないけど、思わず口走っていた。
「……あの~、あれだ!大丈夫、そんなに落ち込む事ないし!テセラも事が済めばきっと――ひょっこり帰って来るはずだし……!だからあんたも――」
本当にこんな事は初めてだ――根拠も何もなさ過ぎだし。
いつも野良魔族と言う存在を撃滅する事だけに、思考を研ぎ澄ませていれば良かったんだ。
それが今じゃ、いろんな奴に気を使い過ぎて――正直ホントに疲れているのが本音だった。
その言葉を放ったアタシ――それをまん丸な目を見開いて、凝視する黒髪はんなり少女に気付くのが遅れてしまう。
――えっ?アタシが何か変な事言ったか?
浮かんだ疑問をぶつけようとしたら、今落ち込んでたはんなり少女が噴き出した。
それも盛大に……。
「ぷっ……!あははははっっ!何か新鮮や~~、まさかアーエルちゃんに慰められるやなんて!あははっ……苦しっ☆」
ちょっと待つし!――それは流石に失礼だし!
そんな大笑いする事じゃないだろと、久しぶりに狂気のアタシが鎌首を
そして――
「……うん、おおきにな?アーエルちゃん。ウチには今、アーエルちゃんが付いてくれとる。」
アタシの背に深く顔を埋めながら、今大笑いしたはずの少女から――心細い吐露が零れてくる。
「それだけやない……
そして少し元気を取り戻した不安に揺れた少女が、アタシへ満面の笑みを見せてくれた。
「もう大丈夫や。ほんまに、おおきにな……アーエルちゃん。」
完全ではない――けど、アタシの言葉で随分心が軽くなったのか……いつもの
そうじゃなきゃ困る――テセラが戻って来るまでの間にこの子を落ち込ませたら、あの慈愛の化身――どんな悲しい顔をするか知れたもんじゃない。
気持ちを取り直した友人を見るアタシの視界に、朝礼のために教室へ来た先生が映って――
あれ?理事長――先生?
****
「と言う事で、今日からこのクラスへ一時的に留学させて頂きます。英国はロンドンからやって来ました……アセリア・ランスロット・ベリーリアです。よろしくお願いします。」
「はぁっ!?」
どういう事だし!
あの名前、エルハンド様が言ってた――
いや、待て待て待つし!
護衛任務の対象が何でクラスに編入して来てるんだし!?
衝撃のあまり、椅子を後方に弾きながら立つアタシ――思わずクラスの注目を集めてしまった。
つか――理事長先生こと
「ア、アーエルちゃん!?どないしはったん……?」
クラスではアタシの後ろに座る黒髪はんなり少女が、目の前で飛び跳ねる
「あぁ、ごめんなさいねアーエルさん。連絡がまだでした……てへっ☆」
可愛らしすぎる五十代の理事長先生――それを
おいっ……理事長先生あんた知ってたし!?
今のは委員長のアタシじゃない――ヴァチカンのエージェントのアタシに向けた言葉だぞ。
近代的に各机へ備わるタッチパネル式PC――そこからの情報を集約出来る、吊り下げ式大型モニターの前。
居並ぶ編入生とやらと、理事長先生こと
この先生は数十年前――地球と日本を救った英雄、【
その見た目が年齢にそぐわぬ程若々しいのは、この世界における【覚醒者】と呼ばれる上位人類に目覚めた事が起因している。
【
肉体的・精神的に覚醒するその上位存在は、遺伝子レベルでの変貌を遂げる。
それにより体細胞の老化に遅延がかかり、宇宙時間においての寿命が遅延するのだ。
けど、その寿命が遅延すると言う事象は決して楽観出来る物ではなく――それは同時に命が生きる上での厳しい試練が増加する事と同義である。
てへっ☆でごまかした、かく言うこの先生――実は車椅子を必要とする。
これは先生の学生時代まで
最近はリハビリで歩行しているのだが、傍目には分からぬ最新の歩行補助機械を装備しているらしい。
特に学園内――生徒の前に立つ時は、皆の顔をしっかりと見据えたいと言う願いから……車椅子を離れる様にしているそうだ。
全くテセラや
「アーエルさんはクラスの委員長として、詳しい詳細をご報告しますので――放課後、アセリアさんと理事長室まで来て下さいね。これは天のご加護です☆」
〈天のご加護〉――これはエージェントであるアタシに向けた暗号だ。
クラスの皆にはアタシが天使の様に可愛いからとか、謎の言い包めで煙に巻く事に成功した先生。
つか――クラスもそんな事で納得するなよとのアタシの突っ込みを
一部を除いては――
「わあぁ、アーエルちゃん天のご加護頂いたな~。ウチも、お呼ばれしてかまへん?」
うん……知ってたし。
アタシが暗号で呼び出された場合、先ずそこに関係する――或いは関係出来る人間が首を突っ込んで来るのは分かってた。
その筆頭が
テセラがいた頃はむしろ、その暗号が示す任務の先に魔族云々の内容が関わっていたため――当の本人である魔族の王女殿下は蚊帳の外だったが。
「遊びじゃないんだぞ?まあ……いいけど。」
「分かってるえ~。おおきにな、アーエルちゃん☆」
弾いた椅子を直しながら、小声で黒髪はんなり少女に釘を刺す。
何より彼女には、ヤサカニ家次期当主と言う過酷な運命がチラついている。
だからこんな事でも、彼女にとって良い経験になるかも知れない――アタシは最近癖になってきてる、友人へのお節介で渋々彼女の同席を承諾してしまう。
ああ――また対人的なストレスがじわじわと上がり始めたよ……
けど――そのやり取りの最中、理事長先生に指定された席へ向かう者。
今しがた留学して来たと言う護衛対象のご令嬢が、鋭い視線でこちらを
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