第三章 四角激動篇

同じことを繰り返しながら、違う結果を望むこと、それを狂気という。

「……じま君」


 誰かが僕を呼んでいる。


 誰? 母さん?


 今日は修学旅行の振り替え休日で休みだから、修学旅行では色々あったし今日くらいはゆっくりさせてくれ。


「目島君!!」


「んぐっ」


 その声と共に僕の身体に何かが乗る感覚を覚えて、変な声が出た。


「何、母さん今日は休みだって昨日言ったろ」


 寝ぼけ眼で正面を見ると、そこには何故か僕にまたがる私服姿の毒ヶ杜さんがいた。


「ふふっ。お母さんですよ~目島君は目を覚ましなさ~い」


「毒ヶ杜さん!?」


 慌てて僕は飛び起きる。


 僕にまたがっていた毒ヶ杜さんはスルスルとベッドの端に移動していく。


「何でうちにいるの!?」


「それは私がお母さんだからでしょ?」


「じゃなくて」


 ベッドから落ちないように芋虫みたいにベッドの中央に戻ってきた毒ヶ杜さんは僕をからかってそう言った。


「何てね。ウソウソ。休みだから遊びに来たの。目島君の彼女ですって言ったらすんなり入れてくれたよ?」


「へ!?」


 朝っぱらから何か爆弾発言聞いた気がする。


「言ったの!? 母さんに?」


「言ったよ。何でそんなに驚いてるの。事実なんだからいいでしょう」


「じゃなくて」


 僕はベッドから転げるように部屋の扉を開けた。


「あっ……えっとお茶持って来たよ」


 やっぱりだ。部屋の前に聞き耳立ててやがった。


「母さん!!」


 僕は言って部屋に毒ヶ杜さんを残して扉を閉めた。


「ごめん。直に彼女なんて初めてで母さん嬉しくなっちゃって、だってほら、棘ちゃんだっけ? あの子すんごく可愛いじゃない?」


「そんなのいいから、下行ってて。絶対上上がって来ないでね。お茶はありがとう」


「あらあら。絶対上がってくるなって。朝から元気ね~」


 母さんはにやついて階段を下りていく。


「違~う!!そういうのじゃない!!」


 母さんははいはいと僕をあしらって下に下りていった。


「もう、母さんったら」


 ぶつくさ文句を言って僕は、部屋の扉を開けた。


「ごめんね毒ヶ杜さんうちの母さ……ぎゃあああああああ!!?」


「あっ、おかえり目島君。……って何よ大きな声出して」


 何って、何って……毒ヶ杜さんその持ってる物……


「そ、それ……」


 恐る恐る僕は毒ヶ杜さんの持っているものを指差して言った。


「あーベッドの下にあった目島君のえっちな本」


「ぎゃああああああああああ!! 止めて見ないでぇぇぇぇぇぇ!!」


 僕はお茶を置いてその場で悶絶した。


「はははっ目島君面白い~」


 毒ヶ杜さんはと言えば、何か顔も赤らめず陽気に笑っている。


 死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! 毒ヶ杜さんの為に死ぬわけには行かないけど死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!


「わ、笑ってる場合じゃないよ。毒ヶ杜さん」


「何で?」


 素で聞いてきた。この人分かってない。


「だってそれ……その女の人の……は、はだ、裸とか……乗ってる奴だよ」


「してるよ。男の子の部屋のベッドの下にはえっちな本が置いてあるってこの間、花達に聞いて見て見たら本当にあったから、どんなもんなのか見てたの」


「見てたのじゃないよ! 毒ヶ杜さんはそういうの見ちゃ……ダメだよ」


「えぇ~何で? 目島君はいいのに私はダメなの?」


「僕は……男だから。というか怒らないの? こういうの読んでて」


「何が?」


 毒ヶ杜さんは首をこくんと傾げる。


「ほら、彼女居るのにこういうの読むのは女子は嫌なんじゃないの? いや、もちろんそれは付き合う前から持っていたものだけど」


「怒らないよ。だって本じゃん。それに目島君の歳頃なら普通なんじゃない? こういうの持ってるの。そりゃ、私じゃない人とイチャイチャされるのはヤだよ? でも私は目島君を信じてるから」


 言って毒ヶ杜さんは立ち上がると本を持ったまま、つかつかとこちらに歩いてくる。


 僕の目の前に立つと、ぼそっと言った。


「目島君。しよ? キス」


 僕より背の低い毒ヶ杜さんは背伸びをして僕の顔に自分の顔を近づけて、唇を重ねた。


 ぬちゅるくちゅるとやらしい音を立てて、僕達は愛し合う。


 僕が毒ヶ杜さんを優しく抱くと、毒ヶ杜さんは持っていた本をフローリングにボトンと落として、僕の背中に両手を回した。


「っん……しゅき……」


 どれだけの時間が経っただろう。おそらくそんなに時間は経っていないはずだが、それはもう何時間も経ったような感覚に陥る。


 何度も何度も唇を這わせて、唇同士で撫で回して、僕らの口元は唾液でべちょべちょだ。


「っんは」


 ゆっくり唇を離して、見詰め合う。


「ふふっ」


 僕は今、凄く幸せだ。

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