愛は義務より良い教師である。ⅩⅩⅧ
***
「はぁはぁ……」
息を切らせて僕は、露天風呂を飛び出して、裏手の木陰に座り込んでいた。
な、何とかバレずに出る事が出来た。よかった。何と言うか僕、最近運いいな。驚く強運ぶりだ。
「あっ、目島氏!!」
自分の左側から佐藤の声が聞こえた。
「よかった。無事だったんだね」
「目島殿。本当にすまぬ。拙者のせいで命の危機に晒してしまって本当に面目ない」
佐藤の後ろからやってきた鈴木は出会い頭、僕にめいいっぱい頭を下げた。
「ははっ。いいよ別に。それよりもうこんな事考えるのは止めよう」
「うむ。承知した。男の約束で候」
言って僕と鈴木は握手を交わした。
「僕も」
その手に佐藤も手を重ねた。
まぁ、今回こいつら何も得てないからな。特別にお咎めなしで大目に見よう。注意喚起で。
「それより、早く部屋に戻るで候」
「だね」
こうして僕達のミッションは終わった。
……けど、僕の頭には委員長のあの言葉がずっとぐるぐるしていた。
***
「お前ら~ちゃんと全員バスに乗ったか~」
担任のそんな声に委員長が点呼大丈夫ですと答える。
長かったのか短かったのか分からない僕らの修学旅行が終わろうとしている。
ぎゅうぎゅうにバスに詰め込まれて、僕達は帰路に着く。
思い出してみると、この数日の修学旅行は物凄い密度の濃いものになった。
乗る新幹線は間違えるし、毒ヶ杜さんと二人きりになって迫られたり、からかわれたり、アインシュタイン先生にあったり、告白されたりしたり、それで付き合うことになったり、キスもした。手当てもしてもらったしカラオケも行った。見つからない様にのぎりぎりの計画やミッションもあった。
なんだか、一ヶ月前を考えると僕と、それを取り巻く環境が大きく変わった気がする。
存在感がなく、透明人間だったはずの僕じゃなくなり、今の僕には毒ヶ杜さんがいて、委員長がいて、冷百合や木下、佐藤に鈴木とたくさんの人がいる。
もう僕は一人では生きていけない。いや、元々一人でもなかった。そう思い込んでいただけだ。
人は一人では生きていけない。
誰かに支えられて生きている。
それに感謝して僕はこれから生きていく。
***
「もう……無理ぃ……お兄ちゃん」
お兄ちゃんのベッドに横たわって私は天上を虚ろな目で見る。
もう二日。いや、今日で三日目か。
こんな長い間私をほったらかしにして……いやそれは別に問題ではない。
これはお兄ちゃんなりの放置プレイなんだ。私は嬉しいよ?
でもね。お兄ちゃんもう二日もこのベッドで寝てないんだよ?
いくら、お兄ちゃんのベッドと言っても、お兄ちゃんの香りもお兄ちゃんの汗も汚い何かも全く感じないの。お兄ちゃん成分が足りないの。
やっぱり、少しだけ寂しいよ。お兄ちゃん。
「早く帰ってきてよ、お兄ちゃん」
私の声が抜け殻みたいな部屋に響いた。
第二章 END
to be Continued……
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