愛は義務より良い教師である。ⅩⅩⅤ

「な、何て事を言うんだ。鈴木氏」


「目島殿が来るまでもそうしていたで候。続けたらいいで候」


「な、何ぃ?」


 な、何だ何だ。いつもは気持ち悪いくらい仲のいい二人がこんなにも険悪なのは初めて見る。

 まぁ、鈴木の気持ちも分からない事もない。確かに自分の手に入れられなかったものを見せびらかせられるのは、いい気分ではない。


 とはいえ、ケンカなんて絶対ダメだ。僕が止めないと。


「まぁまぁ。二人とも落ち着いて」


 今にも一発即発の二人の間に割って入っていって、仲裁に入る。


「で、目島殿は拙者についてきてくれるで候?」


「いや、だからその……」


 違うんだ。僕が行く行かない以前に、こいつらに毒ヶ杜さんの神秘な裸体を見せたくねぇ!!


 僕の本音はこれだ。


「どうするで候。目島殿。仮に目島殿が行かなくても、拙者は行く!! 一人は心もとないが」


 行くしかないじゃねぇか!!!!!


 てか、僕に聞く意味あった? 結局、どっちでも行くしかないじゃん。この選択肢……


 仕方ない。こうなったら……


「三人で行こう!! 僕らは同士だ。こんな所で仲違いしてる場合じゃない!!」


 その言葉に佐藤と鈴木ははっとする。


「目島氏……」


「目島殿……」


「そうでしょう!! みんな目的は一緒。なら協力しないと成功しないよ!!」


 何言ってんだ僕。思ってもない事口走って……


「その通りで候。こんな所でケンカしてる暇ないで候。佐藤殿先ほどの非礼詫びよう。すまぬ」


「いやいや、僕の方こそ君の事を考えず、ごめんよ。よかったらこれ貸してあげるよ」


 佐藤はステッキを渡して握手しようと手を出した。


「ありがとう」


 言って鈴木はその手を握る返した。


「やっぱり、目島氏は僕らのリーダーだね。デュフフ」


「全くで候」


 何か勝手にリーダーにされた。てか、そんな事どうでもいい。


 是が非でも毒ヶ杜さんの裸体は僕が守らないと。


「ほら、早くしないと女子が大浴場に着いてしまうで候」


 鈴木に促され、僕達のミッションが開始した。


***


「こっちで候」


 鈴木が先頭に立って僕達を手引きする。


 こっそり抜け出した僕達は外に出て、裏手に回って、露天風呂の真後ろまでやってきた。

 高い仕切りの向こう側には、もくもくと湯気が立ち上り、ここまできてしまったと自分達に認識させる。


「まだ声が聞こえないで候。どうやら、間に合ったようで候。さぁ、ジャンケンの時間で候」


 言って鈴木は両手を伸ばして、ジャンケンをする前によくやる握った両手の中を覗くルーティンをする。


「鈴木、ジャンケンって何の?」


 僕が聞くと、鈴木は人差し指を立てて、ちっちっちと舌を鳴らす。


「決まっているで候。ここからは肩車して交互に楽しむで候。その順番決めのジャンケンで候」


 そういう事か。それなら負けられない。違う。別に一番に見たいとかそういうのじゃない。僕は今強い使命感の上に行動しているんだ。

 そう、毒ヶ杜さんの神秘的な裸体を守るという圧倒的使命感の上に。


 勝って一番上をもらい、何とかこいつらに一番上を渡さないようにしないと。


「じゃあ行くで候」


 鈴木の合図で僕は、毒ヶ杜さんの平和のためにという意味も込めてチョキを出した。

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