愛は義務より良い教師である。ⅩⅩⅣ

***


「目島氏!! 見てくれよ。地方限定『キラキラ☆みかりん』のマジカルステッキ雪国バージョン。手に入れてしまったよ。僕はもう感無量さ」


 そう言って佐藤は今日の自由行動で手に入れたであろうアニメ『きらきら☆みかりん』の作中にて主人公、みかりんが使用するマジカルステッキの限定モデルをしっかり握ってクルクル回って無駄に二酸化炭素を排出する。


「よかったじゃない」


 部屋に戻った僕への佐藤の第一声がこれだったのだ。


「何と言うか僕は運がいい。まさか最後の一本に巡り合えるなんて。んふ~これはオタクの神様が僕に与えた褒美なんじゃないかと思うよ。デュフフ」


 それはいいけど、オタクの神様って何?


「えっ、じゃあ鈴木は?」


「それが僕の後ろにいた鈴木殿は手に入れることが出来ず、あれ」


 そう言って佐藤は遠くを指差す。


「鈴木!?」


 そこにはベッドに布団を被って何かぶつぶつ呪文を唱える様に独り言を言う鈴木のいたたまれない姿があった。


「そっとしといてやってくれ。彼は深い悲しみに暮れているところなんだ。そう、オタク戦士にはこういう挫折も必要なんだよ」


 そういうならお前が一番自重しろよ!! 何やってんのお前!? だってあれでしょ? 僕が部屋に来た時にはこうなってたって事は、つまりその前はこうなってる鈴木を前に一人でそのステッキ振り回してたって事でしょ!? もっと鈴木の事、思ってやれ。てか、オタク戦士って何だ。


 とはいえ確かに今の鈴木は声をかけるにも、かけられない何か禍々しいオーラを放っている。


 今はそっとしておいてあげよう。


 と、その時。


「ぱーぺきで候ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


 突然、被っていた布団が宙を待って、引きこもっていた鈴木がベッドの上に両手を上げた状態で、まるで卵から生まれたひよこの様に誕生した。


「大丈夫、鈴木?」


 あまりにも突然の事で、鈴木を心配する。


「おぉ。目島殿。帰ってきたで候。待ってたで候」


 待ってた? どういう事だ?


「待ってたって何かあった?」


「うむ。拙者、これより男のロマンを求めに戦場に赴く所に候。しかし、一人とは拙者も心もとない。そこで目島殿にも同行して欲しいで候」


「男のロマン? 戦場?」


 僕は鈴木が何を言っているのかまったく理解できず、首を傾げる。


「ふふふっ。分からないで候? 男のロマン!! 禁断の花園!! そう、これより女風呂に潜入するで候!!」


 鈴木の堂々宣言にどこから吹いてくるのか分からないが、謎の風が部屋の中に吹き抜ける。


「お、女風呂!?」


「声がでかいで候、目島殿。自由行動から戻ってきて女子、男子、先生の順番に露天風呂付き大浴場に入る事になっているで候。今頃、女子は大浴場に向かっている所で候。大浴場にはここから走っていけば女子より先につける。拙者と一緒に戦ってはくれないか、目島殿」


 めっちゃ真剣な顔して何言ってんだコイツ。にしても、鈴木はこういう事はホントによく分析している。


「だ、ダメだよ。ていうか、落ち込んでるのかと思ってたら、これの計画を練ってたの!?」


「いかにも」


 言って鈴木は肩を揺らしてゲスい笑い方をする。


「あの、その計画には僕も入っているのかな?」


 そう言ったのは僕と鈴木の横に立つ、マジカルステッキを握る佐藤。


「るっさい!! 貴様は一人でそのステッキでも振ってアホ踊りでも踊ってればいいで候!!」


「鈴木!?」


 相当きているのか、鈴木は佐藤の話を突っ張ねて、マジカルステッキを指差した。

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